面と向かって反抗したことは、なかったの
にな。傷付けたくなんかなかったのに、気持
ちを抑えられなかった自分が情けなくてため
息が止まらない。いっくんの気持ちを勝手に
決められたのが、どうしても許せなかったの
だ。いっくんがどう思っているかなんて誰に
もわからない。なのに生きている者が、自分
の心を守るためにそう思おうとすることが耐
えられなかった。
でもあれは不味かった。あそこまで態度に
出しちゃったら、なにもなかったような顔を
して顔を合わせることなんか出来ない。これ
からどうしよう。お母さんの顔を思い出して
頭を掻きむしった時だった。
「なーにやってんだ」
聞き慣れた低い声がしてのそりと顔を上げ
ると、白いボトルと青い如雨露を持った赤垣
さんが目を丸くしていた。ぐしゃぐしゃにな
ってしまった髪を慌てて整える。えっと、と
小首を傾げるとわたしは作り笑いを浮かべた。
「また『お家帰りたくない病』を発症しち
ゃって」
そう口にすると、赤垣さんは肩を竦める。
「今回は重症のようだな。おでこが赤くな
ってるぞ」
言われてぱっと額に手を当てると、赤垣さ
んは、にっと口角を上げ、花壇の前に立った。
白いボトルのキャップに液体を入れ、それを
如雨露の中に入れる。ちらっと見えた液体は
青色をしていたから、たぶん液肥だろう。
赤垣さんは如雨露を手に持つと、柔らかな
陽を浴びて生きいきと咲いている花たちに与
え始めた。わたしはいつものように赤垣さん
の傍に行ってしゃがむ。スカートで包むよう
にして膝を抱えると、ぽろりと言葉を零した。
「担任から母親に連絡がいっちゃったんで
すよねぇ」
悩まし気に言うと、「なんでまた」という
声が斜め上から降ってくる。わたしは公民科
の授業でやらかしちゃったことを、白状した。
「『命の重さに違いがあるか』っていうディ
スカッションがあってみんなは当たり障りの
ない意見を出してたんですけど、そこで『命
の重さが平等なんてただの建前』だって熱く
語っちゃったんです。だって、命の尊さは同
じでも、人の大切さは同じじゃないって思い
ませんか?もし目の前で大事な人と見知らぬ
子どもが溺れていたらどっちを助けますか?
子どもの方を助けて大事な人が命を落とした
りしたら、絶対後悔しますよね?命の重さを
決めるのはその人と関係が深い人たちだから、
ここで議論すること自体意味がないって熱弁
しちゃったんです。そしたらそのことを問題
視されて、家に連絡がいっちゃいました」
にな。傷付けたくなんかなかったのに、気持
ちを抑えられなかった自分が情けなくてため
息が止まらない。いっくんの気持ちを勝手に
決められたのが、どうしても許せなかったの
だ。いっくんがどう思っているかなんて誰に
もわからない。なのに生きている者が、自分
の心を守るためにそう思おうとすることが耐
えられなかった。
でもあれは不味かった。あそこまで態度に
出しちゃったら、なにもなかったような顔を
して顔を合わせることなんか出来ない。これ
からどうしよう。お母さんの顔を思い出して
頭を掻きむしった時だった。
「なーにやってんだ」
聞き慣れた低い声がしてのそりと顔を上げ
ると、白いボトルと青い如雨露を持った赤垣
さんが目を丸くしていた。ぐしゃぐしゃにな
ってしまった髪を慌てて整える。えっと、と
小首を傾げるとわたしは作り笑いを浮かべた。
「また『お家帰りたくない病』を発症しち
ゃって」
そう口にすると、赤垣さんは肩を竦める。
「今回は重症のようだな。おでこが赤くな
ってるぞ」
言われてぱっと額に手を当てると、赤垣さ
んは、にっと口角を上げ、花壇の前に立った。
白いボトルのキャップに液体を入れ、それを
如雨露の中に入れる。ちらっと見えた液体は
青色をしていたから、たぶん液肥だろう。
赤垣さんは如雨露を手に持つと、柔らかな
陽を浴びて生きいきと咲いている花たちに与
え始めた。わたしはいつものように赤垣さん
の傍に行ってしゃがむ。スカートで包むよう
にして膝を抱えると、ぽろりと言葉を零した。
「担任から母親に連絡がいっちゃったんで
すよねぇ」
悩まし気に言うと、「なんでまた」という
声が斜め上から降ってくる。わたしは公民科
の授業でやらかしちゃったことを、白状した。
「『命の重さに違いがあるか』っていうディ
スカッションがあってみんなは当たり障りの
ない意見を出してたんですけど、そこで『命
の重さが平等なんてただの建前』だって熱く
語っちゃったんです。だって、命の尊さは同
じでも、人の大切さは同じじゃないって思い
ませんか?もし目の前で大事な人と見知らぬ
子どもが溺れていたらどっちを助けますか?
子どもの方を助けて大事な人が命を落とした
りしたら、絶対後悔しますよね?命の重さを
決めるのはその人と関係が深い人たちだから、
ここで議論すること自体意味がないって熱弁
しちゃったんです。そしたらそのことを問題
視されて、家に連絡がいっちゃいました」



