名もなき空に、青い風が吹く

 『命の重さは平等なんてただの建前』とい
う内容を熱弁すると、机を向かい合わせてい
たクラスメイトは空気を読むように苦笑いを
浮かべた。カツカツと教室に響いていたチョ
ークの音が止まり、担任がゆっくり振り返る。
目が合ってヒヤッとしたけれど、その場では
なにも言われなかった。

 でも昨日、家に帰るとお母さんがわたしの
部屋にやって来た。

 「担任の先生がスクールカウンセラーの面
談を受けた方がいいんじゃないかって、連絡
くださったのよ」

 その言葉を聞いた瞬間、向けられた視線を
思い出して心が搔き乱された。そっとしてお
いてくれると思ったのに。裏切られた気分で、
「大げさだなぁ」と笑顔を取り繕ったけれど、
お母さんは騙されてくれない。わたしの傍ま
で来て顔を覗き込むと、言って欲しくないこ
とを口にした。

 「亡くなった人に心配をかけないのが一番
の供養なんじゃないかな?芦香がいつまでも
元気になれないと、いっくん、心配すると思
うよ?カウンセラーの先生に会ってみようよ」

 頭の芯がすっと冷えた気がした。

 なんでお母さんにいっくんの気持ちがわか
るの?そう思ったらもう、止められなかった。

 「そんなのわかってるよ!いいからほっと
いて!いますぐ出てってっ!」

 金切声をあげたわたしの目に、お母さんの
傷付いた顔が映り込む。それでも胸の中で弾
けた怒りは熱くて止められない。わたしは赤
い目をお母さんに向け、大きく息をついた。
お母さんがうな垂れる。宥めるように一度わ
たしの肩を擦ると、静かに部屋を出て行った。

 ドアが閉まる音を聞いたわたしは、なにか
から解放されたように肩の力を抜いた。


 それからお母さんとはひと言も話していな
い。今朝もご飯を食べないで家を出て来てし
まったから、顔すら合わせていない。玄関で
靴を履いている時、リビングからお母さんの
明るい声が聞こえてきて少しほっとしたけれ
ど。わたしは素直に謝ることも、お母さんの
愛情を受け止めることも出来なかった。