名もなき空に、青い風が吹く

 「スマホで母さんを撮った時、初めて過去
が視えた。父さんが俺に内緒で運動会を観に
来てくれてたこと、この能力で知ったんだ。
それまでは父親だっていう実感がまるでなく
て、ただたまに会ってくれる人って感じだっ
た。血は繋がってるけど一緒には暮らせない、
母さんが好きな男の人って感じだった。でも
さ、リレーで派手に転んで怪我した俺を見て、
父さん、めっちゃオロオロしてたんだよね。
いまにもグランドに駆けて行きそうな父さん
を母さんが必死に宥めててさ。その時、俺、
初めてこの人の息子なんだって思えた。父さ
んって呼んでもいいかなって、思えた」

 大翔が頬を緩める。横顔が笑っているよう
にも、寂しそうにも見えてしまうのはわたし
が子どもの頃から大翔のことを知っているか
らだ。まるで寂しくない顔をしながら、お父
さんの温もりを求めていたことを知っている
からだ。だから行くな、なんて言えなかった。

 大翔とお父さんの絆に水を差すようなこと、
わたしには出来なかった。

 わたしは人差し指で、ツン、と大翔の肩を
突ついた。

 「過去を知って、気持ちが変わったんだね。
オロオロしてるところ、視られてよかったね」

 大翔がほっとしたような笑みを向ける。
 それだけで心の中が、すべてが伝わる。

 「あれだけ派手に転べば、心配もするよな。
膝から血ぃダラダラ流しながら歩いてゴール
したあの時の痛み、思い出した」

 その言葉にわたしは、はっと息をのんだ。

 血というワードを聞いて、ふとあることを
思い出してしまう。

 「そういえば大翔って、変わった血液型だ
ったよね?ほら、百万人に一人しかいないと
かいう」

 「ああ、ボンベイ型のこと?」

 「そう、それ。O型に見えるけど実はO型
じゃなくて輸血に困るっていうヤツ」

 思い出した途端、じわじわと黒い染みのよ
うに不安が胸に広がる。大怪我を負った大翔
に血が必要になっても、ボンベイ型以外の血
は使えないのだ。もし、その時、血が足りな
かったら?一直線に伸びている心電図の波形
が脳裏に浮かんで、背筋が寒くなった。