名もなき空に、青い風が吹く

 「わかった。鷲塚さんに刺されちゃうんだ。
だから鷲塚さんは震えながら大翔のカメラを
持ってた。きっとそうだ」

 「どんだけ恨まれてるんだよ。俺は副部長
としていつも彼女をサポートしてるつもりだ
し、プロカメラマンのアシスタントを経験さ
せてもらえるって、むしろ感謝されてるくら
いなんだけど」

 適当なことを言ったわたしに、大翔が呆れ
顔を向ける。ちょっと、冗談がキツかったか。
調子に乗り過ぎたことを反省すると、わたし
は大きく頷いた。

 「とにかく、なにが起こるにしても祭りに
行かなければ大翔が危険な目に遭うことはな
いね。これで運命は変わるから大丈夫。問題
解決。よかった、よかった」

 いままで視えた未来が外れたことはなかっ
たけれど、今回だけは外れてくれなきゃ困る。
これで外れることが確定したんだ。心の隅に
残る形のない不安を無視して空を仰いだわた
しの耳に、「無理」という言葉が飛び込んで
来た。

 どくんと鼓動が胸を打つ。

 信じられない思いで目を見開くと、わたし
は大翔を凝視した。

 「無理って、どういう意味?」

 「どういう意味って、祭りに行くってこと」

 「なんで?行ったら死んじゃうかもしれな
いんだよ?なのになんでわざわざそんな場所
に行くかな」

 静かな公園にわたしの尖り声が響く。
たったいま大翔の運命を変えられたと思った
のに、一瞬のうちに事態が振り出しに戻って
しまう。そのことに焦りを感じてにじり寄る
と、大翔は澄んだ眼差しを向けた。

 「初めて、父さんにアシスタント頼まれた
んだ。だから断るなんて出来ない。絶対行き
たい」

 神様に誓うみたいに絶対と強調した大翔に、
返す言葉が見つからない。なにも言えず探る
ように瞳の奥を覗くと、大翔は空の向こうに
視線を移し、息を吐き出した。