名もなき空に、青い風が吹く

 「これ、これが視えたの!鷲塚さんの手を
握ったらね、彼女が血のついたこのカメラを
持って震えてるのが視えたの!」

 指をさして声を震わせながら言うと、大翔
は眉間のシワを深めた。

 「だからなんで芦香が鷲塚さんのこと知っ
てんのか、まずそこから話せって」

 「ごめん、そうだよね。待って、いったん
呼吸整えるから」

 両手を胸に当てて夜の匂いを含んだ空気を、
吸ったり吐いたりする。興奮で散らかってい
た思考を整理すると、わたしは救命講習に行
ったこと、そこで鷲塚さんに出会って一緒に
救急車の中を見学したこと、よろけたわたし
に彼女が手を差し伸べてくれて握ったら能力
が発動したこと。救急車の傍にそのカメラを
持った彼女が立っていたこと。

 それらのことを掻い摘んで話すと、大翔は
合点がいったように腕を組んで頷いた。

 「なるほどね、このキーホルダーが視えた
から一発で俺のだってわかったのか」

 「そう!もう視えた瞬間の驚きは言葉じゃ
説明できないよ。雷がドカンと頭に落ちたみ
たいだった」

 「説明できてるじゃん」

 身振り手振りをしながら言ったわたしに、
大翔が突っ込む。話の腰をボキッと折られた
ようで、わたしは思わず押し黙る。

 「でも部長、鷲塚さんが救命講習に行った
理由はなんとなくわかる。彼女、前に道端で
倒れたお婆さんを通りすがりの人に助けても
らったことがあるんだ。だから、自分も誰か
を助けられるようにって、思ったんだと思う」

 「それって本人から聞いたの?」

 「いや、カメラで視えた」

 「覗きか」

 「能力って言えよ」

 お風呂を覗かれたことを根に持っているわ
たしは、惚けた顔で肩を竦めて見せる。でも、
だから鷲塚さんはあんなに熱心に講習を受け
ていたんだ。真剣にメモを取りながら話を聞
いていた彼女を思い出し、そういうことか、
と、内心頷いた。