名もなき空に、青い風が吹く

 「じゃあ、質問です。AEDはどこに設置さ
れているでしょう?思いつく場所をあげてみ
てください。さっそく、手が上がりましたね。
はい、増山さん」

 「学校?」

 「正解です。他には?」

 「えっと、駅とか病院とか」

 「正解、他には?」

 「うっ、わかりません」

 答えに窮して下を向くと指導員の女性が目
を細め、頷く。続けて他の参加者が当てられ、
市役所や公民館、コンビニなど次々と正答が
上がった。



 救命講習に参加するべく、消防本部の三階
にある研修室のドアを開けると、すでに二十
人ほどの参加者が集まっていた。

 無料で開催されている救命入門コースは、
講義と実技で一時間半。最後に修了証が交付
されることもあり、参加者たちはみんな真剣
な面持ちで講習に臨んでいた。

 指導員のあいさつから始まり、DVD鑑賞、
救急救命士によるデモンストレーションが終
わると、いよいよ心肺蘇生法の実技訓練だ。
わたしは隣に座っていた鷲塚(わしづか)さんという同い
年くらいの女性と一緒に、訓練に参加するこ
とになった。

 実技訓練が始まると、鷲塚さんのテキパキ
した動きにわたしは思わず目を瞠った。

 講習用のマネキンに近づき、彼女がやさし
く肩を叩く。呼びかけても反応がないことを
確認すると、声を上げ周囲の人に応援を要請
する。

 「人が倒れています。誰か来てください!」

 わたしは講義で習った通り、急いで歩み寄
った。すると彼女は、

 「あなたは一一九番通報をお願いします!」

 「あなたはAEDを持ってきてください!」

 と、的確に指示を出した。訓練とは思えな
い緊迫感に、わたしはシャンと背筋を伸ばし、
慌ててAEDを取りに行く。あらかじめテー
ブルに用意されていたそれを持ってマネキン
のところに戻ると、彼女は胸の真ん中に手を
あてて胸骨圧迫を始めていた。