名もなき空に、青い風が吹く

 「それってさ、わたしの……はっ、はっ、
裸が視えたってことだよね?」

 確かめたくもないことを、確かめる。大翔
はぽりぽりと頭を掻きながら、「いや」と首
を捻った。

 「そんなはっきりは視えなかった。入浴剤
濃すぎてコケの生えた水槽みたいな色だった
から、ほとんど視えてない」

 「ほとんどってことは、ちょっとは視えた
ってことだよね?」

 「まあ、ちょっとは」

 惚けた顔をしてそう答えた大翔に、わたし
は憤怒した。

 「馬鹿っ、覗き魔、変態っ!やっぱり盗撮
じゃん!!カメラで人の裸勝手に視るなんて、
盗撮魔じゃん!!」

 肩から提げていたカバンを、ぶんっ、と振
り回して大翔を殴る。大翔はその一撃をひょ
いとかわすと、振り返りながら逃げた。

 「盗撮じゃないって。視ようと思って視た
わけじゃないから不可抗力!!」

 「不可抗力!?なんて便利な言葉。あーっ、
いままでもそうやって自分に言い訳して覗い
てたんだ、サイテーっ!!」

 「覗いてないって!!裸視えたのは今回が
初めて」

 「やっぱ視えたんだーっ!!」

 夜空に二人の声が木霊する。遊歩道を走っ
て逃げる大翔の背中を追いかけるうち、わた
しは楽しくなって、いつのまにか笑っていた。

 あの頃はいつもこうして笑っていた。二人
の真ん中でわたしは世界中の幸せを独り占め
しているような顔をして、笑っていた。でも、
いまはいっくんがいない。いっくんがいなく
ても、大翔がいるだけで笑えてる自分がいる。

 ごめんね、いっくん。

 三人で笑えなくしちゃったのわたしなのに、
楽しくて、ごめん。

 笑っているのに胸がくっと痛んだ。それで
もわたしは大翔の広い背中を、息が切れるま
で追いかけ続けた。





 「いーっくん、あーそぼっ!!」

 階段を駆け上がって勢いよくドアを開ける
と、机に向かっていたいっくんが「うわぁ!」
と声を上げた。慌てて引き出しになにかしま
ったことに気付き、ととと、と駆け寄って机
を覗く。一羽の白いハトが飛んでいる水色の
封筒が、取り残されたように置かれている。

 わたしは、にたぁ、と揶揄うような笑みを
浮かべると、いっくんの横顔を覗いた。