名もなき空に、青い風が吹く

 「ダメっぽいな」

 手を握ったまま様子を見ていた大翔が落胆
する。なにも視えなくて良かったと心のどこ
かで思ってしまったわたしは、去っていく手
の温もりを寂しく思いながら「ごめんね」と
謝った。

 「別に芦香はなにも悪くないじゃん。この
能力が万能じゃないことは、俺もよくわかっ
てるし」

 そう言ったかと思うと、大翔は首から提げ
ていたカメラを手に持って、わたしに向ける。
突然カメラを向けられたわたしは、逃げるこ
とも顔を逸らすことも出来ず突っ立ったまま、
ぽかんと口を開けてしまった。

 カシャッ、とシャッターを切る音がして時
が止まる。レンズ越しになにか視えてるのか、
大翔はファインダーを覗いたまま、動かない。

 「ちょっと、急に撮らないでよっ!」

 ただの写真撮影じゃないことを知っている
わたしは、頬を膨らませて抗議する。大翔は
ゆっくりファインダーから目を離すと、低く
穏やかな声で言った。

 「あんま自分をイジメんなよ」

 「へっ?」

 一瞬、言葉の意味がわからなくてキョトン
としてしまう。だけど次の瞬間、わたしは息
をのんで大翔に一歩近づいた。

 「もしかして、なにか視えたの?」

 いま過去が視えたんだ。そう理解したわた
しは、なにが視えたのか知りたくてまじまじ
と大翔の顔を見つめる。大翔はこくりと頷く
と、なぜか気まずそうに目を逸らした。

 「視えた。芦香がお湯ん中に沈んでるのが。
風呂で溺れるヤツ結構いるんだぞ。間違って
死んだりしたらシャレになんないだろ」

 怒ったようにそう言った大翔に、目が点に
なる。お湯に沈んでいる、わたしが視えた?
それって、つまり。大翔の言葉から視えたら
しい自分の姿を想像してしまう。湯船に潜っ
て息を止めている自分。天井を見つめ、数を
数えているわたし。――それが、視えたんだ。

 カメラのレンズを通して生まれたままの姿
を視られたことに気付いたわたしは、わなわ
なと震えた。