「……いっくん?」
震える声で彼の名を呼んでも返事はなくて、
恐る恐る振り返ってみてもどこにもいっくん
の姿はなくて。わたしは胸の奥で暴れる心臓
の音をうるさく思いながら、ひたすら待って
いたんだ。
――恐ろしい夢から目が覚める瞬間を。
乾き始めた指先で、またコップを流れ落ち
ようとする水滴を掬い取る。冷たい水があの
時の感覚と重なって、思わず唇を噛みしめる。
シャリ、シャリと氷を突いていた音が止んで、
わたしはゆっくり視線を上げた。
大翔はコップの中を見つめたまま、わずか
に頬を緩めていた。
「いっくんが溺れるわけないって思ってた
んだよな。水泳部のエースで、全国大会でも
二位獲っちゃうくらい泳ぎ得意だったからさ」
小さくため息をこぼした大翔に、こくりと
頷く。いっくんは子どもの頃から泳ぐことが
大好きで、中学では強豪校の水泳部に所属し
ていた。
だからあの日も自分だったら助けられると
思って、迷わず飛び込んでくれたんだと思う。
でも、川の流れは学校のプールとは全然違う。
水面は穏やかに見えても水の流れはとても不
規則で、泳ぎに自信がある人でも溺れてしま
うことがある。特に、岩がある辺りは縦渦と
いう危険な渦が発生しているらしい。それに
飲まれてしまうと強烈な力で川底に引きずり
込まれるから、命を落とす人が後を絶たない
のだ。きっと、いっくんもそうなのだと思う。
わたしを必死に岩に押し上げたいっくんは、
縦渦に飲まれてしまった。渦に飲まれて力尽
きてしまった。すぐにオレンジ色のウェット
スーツを着た救助隊の人が来て捜索してくれ
たけれど。いっくんは百メートルほど離れた
川底に、変わり果てた姿で沈んでいた。
震える声で彼の名を呼んでも返事はなくて、
恐る恐る振り返ってみてもどこにもいっくん
の姿はなくて。わたしは胸の奥で暴れる心臓
の音をうるさく思いながら、ひたすら待って
いたんだ。
――恐ろしい夢から目が覚める瞬間を。
乾き始めた指先で、またコップを流れ落ち
ようとする水滴を掬い取る。冷たい水があの
時の感覚と重なって、思わず唇を噛みしめる。
シャリ、シャリと氷を突いていた音が止んで、
わたしはゆっくり視線を上げた。
大翔はコップの中を見つめたまま、わずか
に頬を緩めていた。
「いっくんが溺れるわけないって思ってた
んだよな。水泳部のエースで、全国大会でも
二位獲っちゃうくらい泳ぎ得意だったからさ」
小さくため息をこぼした大翔に、こくりと
頷く。いっくんは子どもの頃から泳ぐことが
大好きで、中学では強豪校の水泳部に所属し
ていた。
だからあの日も自分だったら助けられると
思って、迷わず飛び込んでくれたんだと思う。
でも、川の流れは学校のプールとは全然違う。
水面は穏やかに見えても水の流れはとても不
規則で、泳ぎに自信がある人でも溺れてしま
うことがある。特に、岩がある辺りは縦渦と
いう危険な渦が発生しているらしい。それに
飲まれてしまうと強烈な力で川底に引きずり
込まれるから、命を落とす人が後を絶たない
のだ。きっと、いっくんもそうなのだと思う。
わたしを必死に岩に押し上げたいっくんは、
縦渦に飲まれてしまった。渦に飲まれて力尽
きてしまった。すぐにオレンジ色のウェット
スーツを着た救助隊の人が来て捜索してくれ
たけれど。いっくんは百メートルほど離れた
川底に、変わり果てた姿で沈んでいた。



