名もなき空に、青い風が吹く

 なんであなたにいっくんの気持ちがわかる
の?どうして亡くなった人の気持ちがわかる
の?ねぇ、教えてよ――。

 一度そう思ったら耐えられなかった。

 友だちとして励ましてくれているんだって、
思えなくなってしまった。

 それからはもうバタバタだった。受験勉強
なんて一切やってなかったわたしが受験する
なんて言い出したから親は大慌てだし、十二
月に願書を提出しなきゃいけないからすぐに
先生に相談しなきゃならなかったし。それで
も超ラッキーなことに志望校への合格を果た
したわたしは、どこにでもいる平凡な女子高
生として生活を送っている。

 学校の先生たちはわたしが被災者だという
ことを知ってるけど、友だちの中でそのこと
を知ってる子は誰もいない。和佳も、千聖も、
いまのわたししか知らない。中学からずっと
一緒にいるのに本当のことなんにも打ち明け
られなくて、申し訳ない気持ちもあるけれど。
打ち明けなくても友だちでいられるならそれ
でいいや、というのがわたしの本音だった。



 シャリ、シャリ、シャリ。

 大翔がストローでコップの中の氷を突く。
どこか清涼感のある音が、つかの間の沈黙
をやさしく砕いてくれる。

 「……あれから五年も経つんだな」

 視線をコップの中に落としたまま、大翔が
口を開く。

 「そうだね、五年も経つんだね」

 わたしは大翔の言葉をなぞるように呟いた。

 わたしたちのいとこがいなくなって、五年。
長いようで瞬く間に通り過ぎたようにも感じ
る、五年という歳月。戻せるなら時を戻した
いけれど、それは叶わない。どんなに願って
も、失われた命は二度と戻らない。

 耳の奥に川のせせらぎがよみがえる。楽し
気な子どもたちの声が、鼓膜の中で木霊する。

 コップから滑り落ちようとする水滴を指先
で掬い取ったわたしは、濡れた指を見つめた。




 あの日、わたしたちはバーベキューをしに
河原に来ていた。そこは川遊びスポットとし
て有名な渓谷で、あちこちから家族連れの声
が聞こえた記憶がある。水の流れは穏やかで、
川底が透けて見えるほど水は澄んでいて、陽
に照らされた水面はきらきらとエメラルドグ
リーンに輝いていた。