名もなき空に、青い風が吹く

 大翔の高校は共学で、わたしの通う高校と
自宅の中間にあるから今日は電車を途中下車
してここまでやって来たのだ。七時にカフェ
で待ち合わせというのはそれなりに待ち時間
が長かったから、学校の中庭で時間を潰して
いたのだった。

 「それにしても、ずいぶん遠くまで通って
るんだな。朝辛くない?」

 「うーん、ちょっと辛い。でも、小学校の
友だちはみんな事故のこと知ってるし、変に
気を遣われるのがしんどかったから中学受験
したんだよね。受かってラッキーだったけど」

 水っぽいミルクティーを口に含み喉を潤す。

 小学六年の夏に水難事故の被災者となった
わたしは、周囲の気遣いを重たく感じてしま
い遠くの中高一貫校を受験したのだ。だから、
毎朝六時四十五分に家を出て、一時間四十分
電車に揺られ、そこそこの偏差値の女子校に
通っている。

 いっくんが亡くなったあとしばらく学校を
休んでいたわたしは登校し始めた途端、辛く
なってしまった。家に籠っているうちはよか
った。無理に笑う必要も、元気そうに振る舞
う必要もなかったから。だけどひとたび集団
の中に戻るとそうはいかない。

 「元気出してね」
 「気を落とさないでね」
 「芦香ちゃんは何も悪くないんだよ」

 悲劇に見舞われ、大切な人を亡くしてしま
ったわたしに、みんなが色んな言葉を掛けて
くれた。そのたびにわたしは違和感を覚えつ
つも笑顔を張り付け、「ありがとう」の言葉
を繰り返した。もともと天真爛漫でにこにこ
笑顔を振り撒いているような女の子だったか
ら、みんな本当に心配して声を掛けてくれて
たんだと思う。

 その気持ちはすごくわかるし、逆の立場だ
ったら自分も同じような言葉を掛けると思う。
だからちっとも恨んでなんかないし、とって
も感謝してる。

 でもある日、「なんで?」って思っちゃっ
たんだ。

 「早く元気にならないと、亡くなった人が
悲しむよ」

 ごく自然にそんな言葉を投げかけて来たの
は、同じグループの女子だった。その言葉を
聞いた瞬間、胸の中に一気に違和感が渦巻い
てしまった。