お母さんといると、どうしてもたくさんの
言葉を飲み込まなきゃならないから胸が苦し
くなってしまうのだ。気遣わし気な眼差しや
向けられるやさしさが心の負担になるなんて
言ったら、ただの我が儘に聞こえてしまうか
もしれないけど。親の愛情を受け止めなきゃ
ならないプレッシャーは、時に大きな負担と
なる。
そんな細かな事情まで赤垣さんに説明でき
ないわたしは、ここにいる理由をお家帰りた
くない病と命名して伝えたわけであり。なに
かあるんだろうなと察しつつも、赤垣さんは
あえて問い詰めることなくとりとめのない話
に付き合ってくれている。どこにも持って行
き場のない気持ちを抱えているわたしにとっ
て、ふんわりと受け止めてくれる赤垣さんの
存在はなにげに癒しだ。
わたしは膝を抱えると、水を浴びいっそう
生き生きと咲いている花たちを眺めて言った。
「日光が当たる時間しか開かないお花って、
なかなか開いてる時に見られないんですよね。
朝家を出る時は開いてないし、夕方陽が落ち
た頃に帰ると閉じちゃってる。今朝もお水を
やって来たんですけどやっぱり花は閉じてて、
だからここできれいに咲いてるのを見られる
と得した気分になるんです」
花壇に咲いているガザニアの黄色い花びら
に水が弾ける。うちのベランダにも同じ花が
咲いていることを、花壇の世話をしていた赤
垣さんに話したのが始まりだった。
「ガザニアは初心者向けの育てやすい花だ
が、日中ほとんど家にいない学生にはちょっ
と切ない花だな。家でじっくり楽しめない分、
ここで存分に楽しむといい」
「はい。楽しませていただきます」
こくりと頷いて鮮やかに咲いているガザニ
アを、じーっと観賞する。勲章菊という豪華
な和名を持つその花はヒマワリのように黄色
い花弁が空に向かって伸びていて、希望の光
という花言葉がいかにもふさわしいと感じて
しまう。目を見開き、食い入るように見つめ
ていると、低く温かみのある声が斜め上から
降ってきた。
「それにしても、増山さんとこのガザニア
はずいぶん長持ちしてるな。育て始めて何年
経つんだっけ?」
「前の持ち主が育ててた期間がわからない
んですけど、たぶん六年くらいでしょうか?」
「長いなぁ。ガザニアは多年草だが、五年
以上続けて花をつけるのはめずらしい。きっ
と、よほど手間を掛けて大事にしてやってる
んだろうな」
しみじみと言った赤垣さんにわたしは小首
を傾げて見せる。
「ズボラな性格だから大事にお世話出来て
るかわからないですけど、でも、ずっと枯れ
ないで咲いてて欲しいって願いながらいつも
お水をやってるんですよね」
「じゃあ、その気持ちが花に伝わってるん
だな」
「植物に人間の気持ちって伝わるんですか
ねぇ?」
「伝わるさ。植物にもちゃんと感情があっ
て、話し掛けたり、音楽を聴かせてやったり
すると花や果実をたくさんつけてくれるんだ」
「へぇ、そうなんだ。知らなかった」
とりとめのない話に花を咲かせる。シャシ
ャシャとノズルから放たれた水が花々を育み、
和やかな空間に二人の声が溶け込んでいく。
わたしはそれからも赤垣さんと会話したり、
花を眺めたりしながら穏やかなひと時を過ご
した。最終下校のチャイムが鳴る十五分前に
学校を出て見上げた夕空には、金色と薄紅色
の雲がたなびいていた。
言葉を飲み込まなきゃならないから胸が苦し
くなってしまうのだ。気遣わし気な眼差しや
向けられるやさしさが心の負担になるなんて
言ったら、ただの我が儘に聞こえてしまうか
もしれないけど。親の愛情を受け止めなきゃ
ならないプレッシャーは、時に大きな負担と
なる。
そんな細かな事情まで赤垣さんに説明でき
ないわたしは、ここにいる理由をお家帰りた
くない病と命名して伝えたわけであり。なに
かあるんだろうなと察しつつも、赤垣さんは
あえて問い詰めることなくとりとめのない話
に付き合ってくれている。どこにも持って行
き場のない気持ちを抱えているわたしにとっ
て、ふんわりと受け止めてくれる赤垣さんの
存在はなにげに癒しだ。
わたしは膝を抱えると、水を浴びいっそう
生き生きと咲いている花たちを眺めて言った。
「日光が当たる時間しか開かないお花って、
なかなか開いてる時に見られないんですよね。
朝家を出る時は開いてないし、夕方陽が落ち
た頃に帰ると閉じちゃってる。今朝もお水を
やって来たんですけどやっぱり花は閉じてて、
だからここできれいに咲いてるのを見られる
と得した気分になるんです」
花壇に咲いているガザニアの黄色い花びら
に水が弾ける。うちのベランダにも同じ花が
咲いていることを、花壇の世話をしていた赤
垣さんに話したのが始まりだった。
「ガザニアは初心者向けの育てやすい花だ
が、日中ほとんど家にいない学生にはちょっ
と切ない花だな。家でじっくり楽しめない分、
ここで存分に楽しむといい」
「はい。楽しませていただきます」
こくりと頷いて鮮やかに咲いているガザニ
アを、じーっと観賞する。勲章菊という豪華
な和名を持つその花はヒマワリのように黄色
い花弁が空に向かって伸びていて、希望の光
という花言葉がいかにもふさわしいと感じて
しまう。目を見開き、食い入るように見つめ
ていると、低く温かみのある声が斜め上から
降ってきた。
「それにしても、増山さんとこのガザニア
はずいぶん長持ちしてるな。育て始めて何年
経つんだっけ?」
「前の持ち主が育ててた期間がわからない
んですけど、たぶん六年くらいでしょうか?」
「長いなぁ。ガザニアは多年草だが、五年
以上続けて花をつけるのはめずらしい。きっ
と、よほど手間を掛けて大事にしてやってる
んだろうな」
しみじみと言った赤垣さんにわたしは小首
を傾げて見せる。
「ズボラな性格だから大事にお世話出来て
るかわからないですけど、でも、ずっと枯れ
ないで咲いてて欲しいって願いながらいつも
お水をやってるんですよね」
「じゃあ、その気持ちが花に伝わってるん
だな」
「植物に人間の気持ちって伝わるんですか
ねぇ?」
「伝わるさ。植物にもちゃんと感情があっ
て、話し掛けたり、音楽を聴かせてやったり
すると花や果実をたくさんつけてくれるんだ」
「へぇ、そうなんだ。知らなかった」
とりとめのない話に花を咲かせる。シャシ
ャシャとノズルから放たれた水が花々を育み、
和やかな空間に二人の声が溶け込んでいく。
わたしはそれからも赤垣さんと会話したり、
花を眺めたりしながら穏やかなひと時を過ご
した。最終下校のチャイムが鳴る十五分前に
学校を出て見上げた夕空には、金色と薄紅色
の雲がたなびいていた。



