「違いますぅ。今日はお家帰りたくない病
じゃありません」
白いタオルを首から提げ、麦わら帽子をか
ぶっている初老の男性にわたしは口を尖らせ
る。赤垣さんはこの春学校に来た用務員さん
で、花壇の世話をしにやってくる彼とわたし
はここでよくおしゃべりをするのだ。
教員でもなく、養護教諭でもない赤垣さん
とは気負う必要がないからか気軽におしゃべ
りが出来てしまう。これはネットに書いてあ
ったことだけど、校内における用務員の仕事
は多岐にわたり、校舎内の掃除やごみの管理、
壊れた場所や物の修繕、その他にも生徒の見
守りという重要な役目があるのだとか。校内
を巡回しながら職員や色んな学年の生徒たち
と話をしている用務員はかなりの情報ツウで、
用務員ならではの観察眼というものを持って
いるらしい。
だから生徒の異変にもいち早く気付けるわ
けで。学校が終わっても家に帰らず、こんな
ところで油を売っているわたしは、赤垣さん
にとって放っておけない生徒のひとりなのだ
ろう、と内心思っていた。
「今日は人と約束があって、待ち合わせの
時間まで暇潰ししてるだけです」
「そうか、ならいいが。ここのところ家に
帰りたくない病を発症する頻度が増えてる気
がしてな。なにか吐き出したいことがあるな
ら聞いてやらにゃと思ったんだ」
散水ノズルのグリップを握り、花壇に水を
やり始めた赤垣さんが白い歯を見せる。シャ
シャシャという小気味よい音と共に、乾いた
大地に水が注がれる。わたしはガゼボに鞄を
置いたまま赤垣さんに歩み寄ると、隣にしゃ
がみ込んだ。
お家に帰りたくない病とは文字通り、学校
が終わってもなんとなく家に帰りたくないわ
たしの心情を、そのまま言葉にしたものだ。
別に学校が好きでしょうがないわけじゃな
いし、家庭環境が荒れていて家に居場所がな
いわけでもないけれど、まっすぐ家に帰ると
夕食を作りに戻って来たお母さんと顔を合わ
せることになってしまうから、わたしはここ
で時間を潰して帰ることが多い。
じゃありません」
白いタオルを首から提げ、麦わら帽子をか
ぶっている初老の男性にわたしは口を尖らせ
る。赤垣さんはこの春学校に来た用務員さん
で、花壇の世話をしにやってくる彼とわたし
はここでよくおしゃべりをするのだ。
教員でもなく、養護教諭でもない赤垣さん
とは気負う必要がないからか気軽におしゃべ
りが出来てしまう。これはネットに書いてあ
ったことだけど、校内における用務員の仕事
は多岐にわたり、校舎内の掃除やごみの管理、
壊れた場所や物の修繕、その他にも生徒の見
守りという重要な役目があるのだとか。校内
を巡回しながら職員や色んな学年の生徒たち
と話をしている用務員はかなりの情報ツウで、
用務員ならではの観察眼というものを持って
いるらしい。
だから生徒の異変にもいち早く気付けるわ
けで。学校が終わっても家に帰らず、こんな
ところで油を売っているわたしは、赤垣さん
にとって放っておけない生徒のひとりなのだ
ろう、と内心思っていた。
「今日は人と約束があって、待ち合わせの
時間まで暇潰ししてるだけです」
「そうか、ならいいが。ここのところ家に
帰りたくない病を発症する頻度が増えてる気
がしてな。なにか吐き出したいことがあるな
ら聞いてやらにゃと思ったんだ」
散水ノズルのグリップを握り、花壇に水を
やり始めた赤垣さんが白い歯を見せる。シャ
シャシャという小気味よい音と共に、乾いた
大地に水が注がれる。わたしはガゼボに鞄を
置いたまま赤垣さんに歩み寄ると、隣にしゃ
がみ込んだ。
お家に帰りたくない病とは文字通り、学校
が終わってもなんとなく家に帰りたくないわ
たしの心情を、そのまま言葉にしたものだ。
別に学校が好きでしょうがないわけじゃな
いし、家庭環境が荒れていて家に居場所がな
いわけでもないけれど、まっすぐ家に帰ると
夕食を作りに戻って来たお母さんと顔を合わ
せることになってしまうから、わたしはここ
で時間を潰して帰ることが多い。



