雨の日に傘をくれたのは、誰もが恐れる最強の鬼でした。

あのパーティーの夜から、私はアジトの自室に閉じこもっていた。
流星くんが何度もドアを叩いて「美李愛、開けろ」と声をかけてくれたけれど、私は居留守を使い続けた。
『あなたみたいな一般人の女の子じゃ、彼の足手まといにしかならないの』
凜々花さんの言葉が、どうしても頭から離れない。
これ以上流星くんの側にいたら、私はまた彼の優しさに甘えて、いつか本当に彼を困らせてしまう。
最初から、私みたいな日陰の人間が、あんな眩しい世界にいてはいけなかったんだ。

――流星くんがチームの緊急の集まりで出かけた、翌日の夕方。
私はお世話になった部屋を綺麗に片付け、机の上に一通の置き手紙を残して、静かにアジトを飛び出した。
『流星くん、碧くん、蓮くん、律くん。今までありがとう。』
小さなカバン一つだけを持って、私は二度と戻らない覚悟で、夕闇に染まる街へと歩き出した。
「……おい、これはどういう意味だ」

夜、アジトに戻ってきた流星は、美李愛の部屋の机に残された手紙を掴み、低く地響きのような声を上げた。
その場にいた碧、蓮、律の三人が、一瞬で息を呑む。流星から放たれる殺気は、これまで彼らが一度も見たことがないほど、凄まじいものだった。
「美李愛ちゃんが、いなくなった……?」
蓮が手紙を覗き込み、いつもお調子者の顔から完全に余裕が消える。
「流星、あのパーティーの夜、美李愛は泣きながら走って逃げたんだ。お前、彼女に何を言った?」
碧が鋭い目で流星を睨みつける。
「僕はあの後、会場の防犯カメラの映像を調べました」
律が冷徹な手つきでメガネを押し上げ、タブレットの画面を提示する。そこには、流星が席を外した隙に、凜々花が美李愛に接触し、何かを耳打ちしている姿が映っていた。
「……凜々花か」
流星の瞳に、極寒の怒りが宿る。彼はすぐにスマホを取り出し、凜々花へ電話をかけた。繋がった瞬間、流星は容赦なく言い放つ。
『俺の婚約者は、後にも先にも美李愛だけだ。お前との親同士の話なんて、とっくにぶち壊してある。二度と俺の女の前に現れるな。次やったら、お前の実家ごと潰すぞ』
冷酷極まりないトーンで電話を切ると、流星はアジトのドアへと向かった。
「流星、どこへ行く」
「決まってんだろ、美李愛を連れ戻す。あいつは俺のすべてだ。世界のどこに隠れてようが、地の果てまで追って捕まえる」
その背中に、側近の三人がそれぞれの武器や車のキーを手にしながら続いた。
「俺も行く。美李愛ちゃんを泣かせた奴もムカつくけど、美李愛ちゃんを一人で泣かせるお前にも、ちょっと腹が立ってるからね」と、蓮。
「情報網はすべて動かした。彼女の足取りは僕がすぐに見つけます。……でも流星、今度彼女を泣かせたら、本当に僕が奪いますよ」
「見つけたら、二度と離すな。……行くぞ」
律も碧も、蓮に続いて言う。

最強の鬼と、三人の最凶の騎士たち。
美李愛という一人の少女のために、彼らは夜の街へと一斉に飛び出した。