「美李愛、ここで少し待ってろ。すぐ戻る」
パーティーの途中、流星くんは仕事の呼び出しを受け、私の頭をポンと叩いて部屋の奥へと向かった。
一人残された私は、豪華な会場の隅でポツンと佇む。
流星くんの隣にいる時はあんなに安心できたのに、彼がいなくなった途端、周囲のきらびやかな視線が私を値踏みしているようで、急に息が苦しくなった。
「ふふ、やっぱり一人じゃ何もできないのね、子猫ちゃん」
背後から聞こえた鈴を転がすような声に、肩がびくりと跳ねる。
振り返ると、手にしたグラスを傾けながら、凜々花さんが優雅に微笑んでいた。
「あ……凜々花、さん……」
「流星が珍しく女の子を連れているから、どんな子かと思えば……ただ顔が可愛いだけの、ひ弱なお人形さんじゃない」
彼女の言葉には、妹の真李愛のような分かりやすい棘はなかった。
だけど、圧倒的な「格の違い」を見せつけるような余裕が、私の心をじわじわとすり潰していく。
「……私は、流星くんに助けてもらっただけ、ですから……」
俯きかける私に、凜々花さんは一歩近づき、私の耳元で冷ややかに囁いた。
「助けてもらった? 勘違いしないでね。流星があなたを側に置いているのは、ただの気まぐれよ。――だって、私と流星は、親同士が決めた『公認の婚約者』なんだから」
「こん……やくしゃ……?」
頭を強い鈍器で殴られたような衝撃だった。
婚約者。真李愛に颯太くんを奪われた時とは、全く違う絶望が私を襲う。
流星くんの隣は、私なんかじゃなく、最初からこの完璧な凜々花さんのために用意されていた席だったんだ。
「流星はね、いずれこの街のすべてを背負う『鬼』になる男。あなたみたいな一般人の女の子じゃ、彼の足手まといにしかならないの。身の程を知りなさい?」
凜々花さんはそう言い残すと、満足げに去っていった。
冷たくなった身体のまま、私は吸い寄せられるように、流星くんが向かったVIPルームの前の廊下へと歩いていた。少しだけ開いたドアの隙間から、中の様子が見えてしまう。
そこには、流星くんと、いつの間にか中に入っていた凜々花さんの姿があった。
二人は真剣な表情で、何かを話し合っている。流星くんのそんな表情、私には一度も見せてくれたことがない。
(本当だ……。二人は、私の知らない世界で繋がってる……)
胸が引き裂かれるように痛かった。
「……っ」
涙が溢れそうになるのを必死に堪え、私はその場から逃げ出した。
会場の出口へ向かって走る私の前に、異変に気づいた碧くん、蓮くん、律くんの三人が立ち塞がる。
「おい、美李愛!? どうした、そんな青い顔して……」
碧くんが驚いて私の肩を掴む。
「美李愛ちゃん、泣いてるの!? 誰にやられたの、俺がぶっ潰して――」
激昂する蓮くんの手を、律くんが静かに制した。
「蓮、待ちなさい。……美李愛さん、流星と何かありましたか?」
優しい三人の声。だけど、今の私にはその優しささえも、流星くんの「気まぐれ」のおまけのように思えて、耐えられなかった。
「ごめんなさい……っ!」
三人の手を振り払い、私は夜の街へと駆け出した。
頭の中を、凜々花さんの『私が彼の婚約者よ』という言葉が、激しい雨のように何度も何度もリフレインしていた――。
パーティーの途中、流星くんは仕事の呼び出しを受け、私の頭をポンと叩いて部屋の奥へと向かった。
一人残された私は、豪華な会場の隅でポツンと佇む。
流星くんの隣にいる時はあんなに安心できたのに、彼がいなくなった途端、周囲のきらびやかな視線が私を値踏みしているようで、急に息が苦しくなった。
「ふふ、やっぱり一人じゃ何もできないのね、子猫ちゃん」
背後から聞こえた鈴を転がすような声に、肩がびくりと跳ねる。
振り返ると、手にしたグラスを傾けながら、凜々花さんが優雅に微笑んでいた。
「あ……凜々花、さん……」
「流星が珍しく女の子を連れているから、どんな子かと思えば……ただ顔が可愛いだけの、ひ弱なお人形さんじゃない」
彼女の言葉には、妹の真李愛のような分かりやすい棘はなかった。
だけど、圧倒的な「格の違い」を見せつけるような余裕が、私の心をじわじわとすり潰していく。
「……私は、流星くんに助けてもらっただけ、ですから……」
俯きかける私に、凜々花さんは一歩近づき、私の耳元で冷ややかに囁いた。
「助けてもらった? 勘違いしないでね。流星があなたを側に置いているのは、ただの気まぐれよ。――だって、私と流星は、親同士が決めた『公認の婚約者』なんだから」
「こん……やくしゃ……?」
頭を強い鈍器で殴られたような衝撃だった。
婚約者。真李愛に颯太くんを奪われた時とは、全く違う絶望が私を襲う。
流星くんの隣は、私なんかじゃなく、最初からこの完璧な凜々花さんのために用意されていた席だったんだ。
「流星はね、いずれこの街のすべてを背負う『鬼』になる男。あなたみたいな一般人の女の子じゃ、彼の足手まといにしかならないの。身の程を知りなさい?」
凜々花さんはそう言い残すと、満足げに去っていった。
冷たくなった身体のまま、私は吸い寄せられるように、流星くんが向かったVIPルームの前の廊下へと歩いていた。少しだけ開いたドアの隙間から、中の様子が見えてしまう。
そこには、流星くんと、いつの間にか中に入っていた凜々花さんの姿があった。
二人は真剣な表情で、何かを話し合っている。流星くんのそんな表情、私には一度も見せてくれたことがない。
(本当だ……。二人は、私の知らない世界で繋がってる……)
胸が引き裂かれるように痛かった。
「……っ」
涙が溢れそうになるのを必死に堪え、私はその場から逃げ出した。
会場の出口へ向かって走る私の前に、異変に気づいた碧くん、蓮くん、律くんの三人が立ち塞がる。
「おい、美李愛!? どうした、そんな青い顔して……」
碧くんが驚いて私の肩を掴む。
「美李愛ちゃん、泣いてるの!? 誰にやられたの、俺がぶっ潰して――」
激昂する蓮くんの手を、律くんが静かに制した。
「蓮、待ちなさい。……美李愛さん、流星と何かありましたか?」
優しい三人の声。だけど、今の私にはその優しささえも、流星くんの「気まぐれ」のおまけのように思えて、耐えられなかった。
「ごめんなさい……っ!」
三人の手を振り払い、私は夜の街へと駆け出した。
頭の中を、凜々花さんの『私が彼の婚約者よ』という言葉が、激しい雨のように何度も何度もリフレインしていた――。



