雨の日に傘をくれたのは、誰もが恐れる最強の鬼でした。

「流星、あいつが日本に着いた。……いや、もうこの近くまで来ている」
律先輩の冷徹な声がアジトに響いた瞬間、部屋の電気が一瞬だけ明滅し、鋭い足音が廊下から近づいてきた。
バタン、とドアが開く。
そこに立っていたのは、流星くんと同じ、いやそれ以上に圧倒的な覇気を纏った一人の男だった。
銀髪のウルフカットに、吸い込まれそうな冷たい琥珀色の瞳。
流星くんが「野生の黒漆黒の鬼」なら、その男はすべてを凍らせる「美しき氷の王」のようだった。
「ひさしぶりだな、流星。俺のいない間に、ずいぶんと賑やかなアジトになったじゃないか」
「……『夜桜 司(よざくら つかさ)』。お前、なぜここにいる」
流星くんの低い声に、これまでにないほどの激しい敵意と焦燥が混ざる。
司と呼ばれたその男は、流星くんの昔の親友であり、この街の裏社会を流星くんの実家と二分する、夜桜財閥の若き総帥。そして――。
司くんの冷徹な視線が、部屋の奥で三つ子(楓、椿、桜)を抱いて震える私へと向けられた。その瞬間、彼の唇が妖艶に歪む。
「なぜって、俺の『本当の婚約者』を迎えに来たのさ。……逢いたかったよ、美李愛」
「え……っ!?」
頭が混乱する。私が、司くんの婚約者……!?
驚愕する私を庇うように、碧先輩と蓮くんが前に出るが、司くんは一歩も引かない。
「美李愛、お前は覚えていないだろうが、幼い頃、お前の親と俺の親の間で、正式な婚約が交わされていたんだ。真李愛ではなく、地味だった方の『美李愛』とな。流星の親との話はただの口約束だが、俺とお前の契約は本物だ」
「ふざけんじゃねぇ!!」
流星くんが凄まじい殺気を放ち、司くんの胸ぐらを手がちぎれんばかりに掴み上げた。
「美李愛は俺の妻だ! 子供も3人生まれた! 今さら現れてんじゃねぇよ、ぶっ殺すぞ!!」
「ハッ、子供が生まれたなら好都合だ。その三つ子ごと、俺が引き取って愛してやるよ。……力ずくでもな」
司くんは流星くんの手を冷酷に振り払うと、狂気に満ちた熱い瞳で私を睨みつけ、静かにアジトを去っていった。
これが、私たちの幸せを揺るがす、最悪で最大のライバルとの戦いの始まりだった。