あの激闘の準々決勝を大逆転で制した東中バレー部は、その勢いのままにトーナメントを駆け上がり、ついに悲願の「全国大会出場」を決めた。
「よし、今日の練習はここまで! 全員、体調管理を徹底するようにな!」
「「「はい!!!」」」
監督の号令とともに、熱気に満ちた体育館での練習が幕を閉じる。
部員たちが次々と部室へ引き上げていく中、夕暮れのコートには、いつものように二人の影が残っていた。
梨央奈と夏帆だ。
パン、パン、とボールを片付ける音が静かな体育館に響く。
籠にボールを収め終えた夏帆が、「ふぅー!」と大きく息を吐きながらベンチに腰掛けた。ユニフォームの襟元をパタパタと仰ぐたび、あの少し甘い制汗シートの香りが、夕暮れの涼しい空気の中にふわりと広がる。
梨央奈はスポーツドリンクのボトルを手に、夏帆の隣に歩み寄った。
「先輩、お疲れ様です」
「あ、梨央奈。ありがと」
夏帆はボトルを受け取ると、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干し、ぷはっ、と満面の笑みを浮かべた。
その無防備で、太陽のように眩しい笑顔を見るだけで、梨央奈の胸の奥はきゅっと締め付けられる。
全国大会に行ける。それはつまり、大好きな夏帆先輩と一緒にバレーができる時間が、まだ続くということだ。
(でも、全国大会が終わったら……本当に先輩は引退しちゃうんだ)
そう思うと、胸の奥に寂しさが込み上げてくる。このまま「頼れる後輩」のままで終わらせたくない。自分の心の中にある、この熱くて少し苦い想いを知ってほしい。
梨央奈はぎゅっと自分の拳を握りしめ、意を決して夏帆の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「……あの、夏帆先輩」
「ん? どうしたの、梨央奈?」
「もし……もし、私たちが全国大会で勝ったら、ひとつだけ、私のわがままを聞いてくれませんか?」
夕日に照らされた梨央奈の顔は、練習の熱気のせいだけではなく、赤く染まっていた。
夏帆は少しだけ驚いたように目を見張ったが、すぐに愛おしそうに目を細めると、梨央奈の頭を優しく撫でた。
「なーんだ、そんなこと? いいよ、もちろん。梨央奈には、あの予選のときから助けられてばかりだしね。どんなわがままでも、お姉ちゃんが聞いてあげます!」
「お姉ちゃん、じゃなくて……」
梨央奈は小さく呟いたが、夏帆には届かなかった。
それでも、先輩は約束してくれた。「いいよ」と、その温かい手で梨央奈の手を包み込んでくれた。
その手の熱さに、梨央奈の心臓は痛いほどに高鳴る。
(全国で勝って、絶対に伝えるんだ。私の、本当の気持ちを――)
そして、季節は巡り、決戦の夏。
東京の巨大なメインアリーナは、全国から集まった強豪校の熱気と、観客席からの地鳴りのような応援で震えていた。
東中女子バレー部の控室。
緊張感が漂う中、監督がホワイトボードの前に立ち、厳かに告げた。
「これより、全国大会初戦のスタメンを発表する」
誰もが息を呑む。地区予選では「秘密兵器」としてベンチスタートだった梨央奈も、ユニフォームの裾を握りしめてその時を待っていた。
監督の視線が、梨央奈へと向く。
「セッター、星野梨央奈」
その瞬間、控室が一気に沸いた。
「梨央奈、スタメン……!」「やっぱりな、あいつの二刀流があれば全国でも戦える!」
周囲の先輩たちが、今度は嫉妬ではなく、純粋な期待の目を梨央奈に向ける。小学校時代には得られなかった、本当の「仲間」からの信頼がそこにはあった。
「はいっ!」
梨央奈が凛とした声で返事をする。
その背中に、ポン、と強い衝撃が走った。振り返ると、左肩にキャプテンマークを光らせた夏帆が、いたずらっぽく笑っていた。
「ついに最初から一緒のコートだね、梨央奈。私の特等席(レフト)に、最高のトス、待ってるよ?」
「……もちろんです。先輩のスパイクも、私のスパイクも、全部使ってコートを支配して見せます」
梨央奈は不敵に微笑み返し、心の中でそっと付け足した。
(そして、絶対に勝ち進んで――私のわがまま、受け取ってもらいますからね、夏帆先輩)
「東中、行くぞ!!」
夏帆の声に全員が「オーッ!」と応じる。
背番号「12」を背負った天才1年生セッターは、愛する先輩との「約束」を胸に、全国の猛者たちが待つ眩いコートへと、堂々たる足取りで進み出た。
「よし、今日の練習はここまで! 全員、体調管理を徹底するようにな!」
「「「はい!!!」」」
監督の号令とともに、熱気に満ちた体育館での練習が幕を閉じる。
部員たちが次々と部室へ引き上げていく中、夕暮れのコートには、いつものように二人の影が残っていた。
梨央奈と夏帆だ。
パン、パン、とボールを片付ける音が静かな体育館に響く。
籠にボールを収め終えた夏帆が、「ふぅー!」と大きく息を吐きながらベンチに腰掛けた。ユニフォームの襟元をパタパタと仰ぐたび、あの少し甘い制汗シートの香りが、夕暮れの涼しい空気の中にふわりと広がる。
梨央奈はスポーツドリンクのボトルを手に、夏帆の隣に歩み寄った。
「先輩、お疲れ様です」
「あ、梨央奈。ありがと」
夏帆はボトルを受け取ると、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干し、ぷはっ、と満面の笑みを浮かべた。
その無防備で、太陽のように眩しい笑顔を見るだけで、梨央奈の胸の奥はきゅっと締め付けられる。
全国大会に行ける。それはつまり、大好きな夏帆先輩と一緒にバレーができる時間が、まだ続くということだ。
(でも、全国大会が終わったら……本当に先輩は引退しちゃうんだ)
そう思うと、胸の奥に寂しさが込み上げてくる。このまま「頼れる後輩」のままで終わらせたくない。自分の心の中にある、この熱くて少し苦い想いを知ってほしい。
梨央奈はぎゅっと自分の拳を握りしめ、意を決して夏帆の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「……あの、夏帆先輩」
「ん? どうしたの、梨央奈?」
「もし……もし、私たちが全国大会で勝ったら、ひとつだけ、私のわがままを聞いてくれませんか?」
夕日に照らされた梨央奈の顔は、練習の熱気のせいだけではなく、赤く染まっていた。
夏帆は少しだけ驚いたように目を見張ったが、すぐに愛おしそうに目を細めると、梨央奈の頭を優しく撫でた。
「なーんだ、そんなこと? いいよ、もちろん。梨央奈には、あの予選のときから助けられてばかりだしね。どんなわがままでも、お姉ちゃんが聞いてあげます!」
「お姉ちゃん、じゃなくて……」
梨央奈は小さく呟いたが、夏帆には届かなかった。
それでも、先輩は約束してくれた。「いいよ」と、その温かい手で梨央奈の手を包み込んでくれた。
その手の熱さに、梨央奈の心臓は痛いほどに高鳴る。
(全国で勝って、絶対に伝えるんだ。私の、本当の気持ちを――)
そして、季節は巡り、決戦の夏。
東京の巨大なメインアリーナは、全国から集まった強豪校の熱気と、観客席からの地鳴りのような応援で震えていた。
東中女子バレー部の控室。
緊張感が漂う中、監督がホワイトボードの前に立ち、厳かに告げた。
「これより、全国大会初戦のスタメンを発表する」
誰もが息を呑む。地区予選では「秘密兵器」としてベンチスタートだった梨央奈も、ユニフォームの裾を握りしめてその時を待っていた。
監督の視線が、梨央奈へと向く。
「セッター、星野梨央奈」
その瞬間、控室が一気に沸いた。
「梨央奈、スタメン……!」「やっぱりな、あいつの二刀流があれば全国でも戦える!」
周囲の先輩たちが、今度は嫉妬ではなく、純粋な期待の目を梨央奈に向ける。小学校時代には得られなかった、本当の「仲間」からの信頼がそこにはあった。
「はいっ!」
梨央奈が凛とした声で返事をする。
その背中に、ポン、と強い衝撃が走った。振り返ると、左肩にキャプテンマークを光らせた夏帆が、いたずらっぽく笑っていた。
「ついに最初から一緒のコートだね、梨央奈。私の特等席(レフト)に、最高のトス、待ってるよ?」
「……もちろんです。先輩のスパイクも、私のスパイクも、全部使ってコートを支配して見せます」
梨央奈は不敵に微笑み返し、心の中でそっと付け足した。
(そして、絶対に勝ち進んで――私のわがまま、受け取ってもらいますからね、夏帆先輩)
「東中、行くぞ!!」
夏帆の声に全員が「オーッ!」と応じる。
背番号「12」を背負った天才1年生セッターは、愛する先輩との「約束」を胸に、全国の猛者たちが待つ眩いコートへと、堂々たる足取りで進み出た。



