「星野、頼んだぞ……!」
コートから退く先輩と交代し、梨央奈は一歩、コートの床を踏み締めた。
キュッとバレーシューズが鳴る。その瞬間、体育館の空気がガラリと変わった。
「梨央奈!」
駆け寄ってきた夏帆の顔は汗まみれで、息も絶え絶えだった。けれど、その瞳だけは少年のように爛々と輝いている。
「先輩、お待たせしました。……もう、一本も落とさせません」
「うん! 信じてる!」
夏帆が梨央奈の背中をパチンと力強く叩く。その手の熱さに、梨央奈の胸の奥の導火線が一気に燃え上がった。
現在のスコアは18対23。あと2点取られれば試合終了、夏帆の夏が終わる。
相手サーブから、運命のラリーが始まった。
バシィッ!
相手の鋭いサーブが東中陣営を襲う。レシーバーが必死に飛びつき、ボールを上げたが、弾道は低く、ネット際にブレる「乱れたチャンスボール」になった。
「すまない、乱れた!」
「カバー!!」
誰もが「繋ぐだけで精一杯だ」と思ったその瞬間、梨央奈はすでにボールの落下地点へ驚異的なスピードで回り込んでいた。
空中へ高く跳び上がる梨央奈。その美しいフォームに、相手ブロックは警戒を高める。
(白石(夏帆)に上げてくる――!)
相手のディフェンス全員の意識が、レフトの夏帆へと集中した。
だが、梨央奈の瞳は冷徹に相手の陣形を見抜いていた。
ジャンプの最高到達点。トスを上げると見せかけたしなやかな両手が、空中で一瞬にして鋭い「牙」へと変わる。
(――甘い!)
バギィィィン!!!
「……えっ!?」
相手ブロックが跳ぶ暇さえなかった。
梨央奈が放ったのは、セッターの虚を突く「ツーアタック」――いや、それは小手先のフェイントなどではない。小学校時代、全国を震撼させた絶対的エースとしての本気のスパイクだった。
超高速で放たれたボールは、相手コートの真ん中に爆弾のように突き刺さり、激しく跳ね上がった。
「……点、取った……?」
呆然とする観客席。そして、ビィィィー! と東中の得点を告げるホイッスルが鳴り響く。
19対23。
「な、何よ今の……セッターの打つスパイクじゃないでしょ……!」
相手チームが戦慄に目を見開く中、東中のベンチからは割れんばかりの歓声が沸き起こった。
「ナイス、梨央奈!!」
夏帆が弾みをつけて梨央奈の肩を抱き寄せる。すれ違いざまに香る、あの甘い制汗シートの匂い。
「すごいよ梨央奈! セッターなのに、あんなエグいスパイク打てるの!?」
「ふふ、私、元々はエースですから。先輩に綺麗なトスを上げるだけが、私の仕事じゃないです」
梨央奈は不敵に微笑んだ。
ここから、東中学校の猛反撃――否、「星野梨央奈のワンマンショー」が始まった。
梨央奈の本質は、すべてをこなせる「完璧なバレーボーラー」だ。
次のラリー、相手の強烈なスパイクを梨央奈が完璧なレシーブで拾い上げる。
「白石先輩、決めてください!」
代わりの選手が上げたトスを、夏帆が渾身の力で叩き込み、20対23。
さらに梨央奈のサーブ順。
ドゴォッ!! と重低音を響かせたジャンプサーブが相手のレシーブを弾き飛ばし、サービスエース。21対23。
相手チームは完全にパニックに陥っていた。
「なんなのあの子!? トスも一級品なのに、レシーブも、サーブも、スパイクも全部化け物じゃない!」
そして22対23と、ついに1点差に詰め寄った局面。
相手のセッターが焦りから放ったツーアタックを、梨央奈が完璧に読み切ってワンハンドで拾い上げる。
「梨央奈、カバー!」
仲間が必死に繋いだボールが、コート後方へと上がった。普通なら、アンダーで相手コートに返すのがやっとのハイボール。
だが、梨央奈はすでに、バックアタックの助走に入っていた。
(先輩のバレーを、ここで終わらせるわけにはいかない。私は、この人ともっと、ずと一緒にいたいんだ――!)
タ、タン、と力強く床を蹴り、後衛から宙へと舞う。
夕日に照らされた梨央奈の身体が、巨大な影となって相手コートを覆う。
セッターでありながら、誰よりも高く、誰よりも強く跳ぶ「支配者」。
「止めてえええ!!」
相手ブロックが3枚、必死に壁を作る。
しかし、梨央奈の視界には、そのブロックの僅かな隙間と――そして、ネットの向こうで「打て、梨央奈!」と叫ぶ夏帆の熱い瞳がはっきりと見えていた。
空中でしなやかに弓なりになった身体。右腕が、爆風を伴って振り下ろされる。
ドガァァァァンッ!!!!
相手の3枚ブロックを真っ向から打ち砕き、ボールはコートの床へと叩きつけられた。
「う、嘘だろ……バックアタックまで……!?」
体育館全体が、一瞬の静寂のあと、地鳴りのような大歓声に包まれた。
ビィィィーーーッ!!
主審の手が東中側へ上がる。
23対23。ついに、絶体絶命の窮地から同点に追いついたのだ。
「梨央奈ぁぁぁーーーっ!!」
夏帆が我慢できずに飛び込んできて、梨央奈の身体をぎゅっと抱きしめた。
「すごい、すごいよ梨央奈! あなた、本当に最高の秘密兵器だよ!」
「あ……、せ、先輩……っ」
密着した夏帆の身体から、ドクドクと速い鼓動が伝わってくる。熱い体温と、汗の匂い。
梨央奈の顔は、バレーの熱さとは別の理由で、一気に真っ赤に染まった。
抱きしめられたまま、梨央奈は夏帆の耳元で、強く、いたずらっぽく囁いた。
「先輩、驚くのはまだ早いですよ。……ここから一気に、逆転して掴み取りましょう。私達の、全国への切符を」
天才セッターであり、最強のアタッカー。
二刀流の支配者が覚醒した東中は、もう誰にも止められない。反撃の狼煙は、今、爆炎となって燃え上がった。
コートから退く先輩と交代し、梨央奈は一歩、コートの床を踏み締めた。
キュッとバレーシューズが鳴る。その瞬間、体育館の空気がガラリと変わった。
「梨央奈!」
駆け寄ってきた夏帆の顔は汗まみれで、息も絶え絶えだった。けれど、その瞳だけは少年のように爛々と輝いている。
「先輩、お待たせしました。……もう、一本も落とさせません」
「うん! 信じてる!」
夏帆が梨央奈の背中をパチンと力強く叩く。その手の熱さに、梨央奈の胸の奥の導火線が一気に燃え上がった。
現在のスコアは18対23。あと2点取られれば試合終了、夏帆の夏が終わる。
相手サーブから、運命のラリーが始まった。
バシィッ!
相手の鋭いサーブが東中陣営を襲う。レシーバーが必死に飛びつき、ボールを上げたが、弾道は低く、ネット際にブレる「乱れたチャンスボール」になった。
「すまない、乱れた!」
「カバー!!」
誰もが「繋ぐだけで精一杯だ」と思ったその瞬間、梨央奈はすでにボールの落下地点へ驚異的なスピードで回り込んでいた。
空中へ高く跳び上がる梨央奈。その美しいフォームに、相手ブロックは警戒を高める。
(白石(夏帆)に上げてくる――!)
相手のディフェンス全員の意識が、レフトの夏帆へと集中した。
だが、梨央奈の瞳は冷徹に相手の陣形を見抜いていた。
ジャンプの最高到達点。トスを上げると見せかけたしなやかな両手が、空中で一瞬にして鋭い「牙」へと変わる。
(――甘い!)
バギィィィン!!!
「……えっ!?」
相手ブロックが跳ぶ暇さえなかった。
梨央奈が放ったのは、セッターの虚を突く「ツーアタック」――いや、それは小手先のフェイントなどではない。小学校時代、全国を震撼させた絶対的エースとしての本気のスパイクだった。
超高速で放たれたボールは、相手コートの真ん中に爆弾のように突き刺さり、激しく跳ね上がった。
「……点、取った……?」
呆然とする観客席。そして、ビィィィー! と東中の得点を告げるホイッスルが鳴り響く。
19対23。
「な、何よ今の……セッターの打つスパイクじゃないでしょ……!」
相手チームが戦慄に目を見開く中、東中のベンチからは割れんばかりの歓声が沸き起こった。
「ナイス、梨央奈!!」
夏帆が弾みをつけて梨央奈の肩を抱き寄せる。すれ違いざまに香る、あの甘い制汗シートの匂い。
「すごいよ梨央奈! セッターなのに、あんなエグいスパイク打てるの!?」
「ふふ、私、元々はエースですから。先輩に綺麗なトスを上げるだけが、私の仕事じゃないです」
梨央奈は不敵に微笑んだ。
ここから、東中学校の猛反撃――否、「星野梨央奈のワンマンショー」が始まった。
梨央奈の本質は、すべてをこなせる「完璧なバレーボーラー」だ。
次のラリー、相手の強烈なスパイクを梨央奈が完璧なレシーブで拾い上げる。
「白石先輩、決めてください!」
代わりの選手が上げたトスを、夏帆が渾身の力で叩き込み、20対23。
さらに梨央奈のサーブ順。
ドゴォッ!! と重低音を響かせたジャンプサーブが相手のレシーブを弾き飛ばし、サービスエース。21対23。
相手チームは完全にパニックに陥っていた。
「なんなのあの子!? トスも一級品なのに、レシーブも、サーブも、スパイクも全部化け物じゃない!」
そして22対23と、ついに1点差に詰め寄った局面。
相手のセッターが焦りから放ったツーアタックを、梨央奈が完璧に読み切ってワンハンドで拾い上げる。
「梨央奈、カバー!」
仲間が必死に繋いだボールが、コート後方へと上がった。普通なら、アンダーで相手コートに返すのがやっとのハイボール。
だが、梨央奈はすでに、バックアタックの助走に入っていた。
(先輩のバレーを、ここで終わらせるわけにはいかない。私は、この人ともっと、ずと一緒にいたいんだ――!)
タ、タン、と力強く床を蹴り、後衛から宙へと舞う。
夕日に照らされた梨央奈の身体が、巨大な影となって相手コートを覆う。
セッターでありながら、誰よりも高く、誰よりも強く跳ぶ「支配者」。
「止めてえええ!!」
相手ブロックが3枚、必死に壁を作る。
しかし、梨央奈の視界には、そのブロックの僅かな隙間と――そして、ネットの向こうで「打て、梨央奈!」と叫ぶ夏帆の熱い瞳がはっきりと見えていた。
空中でしなやかに弓なりになった身体。右腕が、爆風を伴って振り下ろされる。
ドガァァァァンッ!!!!
相手の3枚ブロックを真っ向から打ち砕き、ボールはコートの床へと叩きつけられた。
「う、嘘だろ……バックアタックまで……!?」
体育館全体が、一瞬の静寂のあと、地鳴りのような大歓声に包まれた。
ビィィィーーーッ!!
主審の手が東中側へ上がる。
23対23。ついに、絶体絶命の窮地から同点に追いついたのだ。
「梨央奈ぁぁぁーーーっ!!」
夏帆が我慢できずに飛び込んできて、梨央奈の身体をぎゅっと抱きしめた。
「すごい、すごいよ梨央奈! あなた、本当に最高の秘密兵器だよ!」
「あ……、せ、先輩……っ」
密着した夏帆の身体から、ドクドクと速い鼓動が伝わってくる。熱い体温と、汗の匂い。
梨央奈の顔は、バレーの熱さとは別の理由で、一気に真っ赤に染まった。
抱きしめられたまま、梨央奈は夏帆の耳元で、強く、いたずらっぽく囁いた。
「先輩、驚くのはまだ早いですよ。……ここから一気に、逆転して掴み取りましょう。私達の、全国への切符を」
天才セッターであり、最強のアタッカー。
二刀流の支配者が覚醒した東中は、もう誰にも止められない。反撃の狼煙は、今、爆炎となって燃え上がった。



