「梨央奈、持ってけーーっ!」
体育館の天井高くに上がったチャンスボール。
セッターの鋭い声と同時に、背番号「1」を背負った星野梨央奈(ほしの りおな)は、すでに助走に入っていた。
タ、タン、と力強く床を蹴り、宙へと跳ぶ。
小学生離れした圧倒的な最高到達点。ネットの遥か上から見下ろす敵陣のブロックは、まるで止まっているかのように遅く見えた。
(――ここだ)
空中で一瞬、身体が静止したかのような錯覚。梨央奈はしなやかに右腕を振り抜き、ボールの芯を激しく叩いた。
ドゴォッ!!!
重い破裂音が体育館に響き渡る。
梨央奈の放った強烈なスパイクは、相手レシーバーの腕を弾き飛ばし、そのまま誰もいないコートの奥へと突き刺さった。
ビィィィーーーッ!!
試合終了を告げるホイッスルの音が鳴り響く。
「セットォッ、ウォン!」という主審のコール。
全国大会の常連である強豪クラブチーム『北斗JVC』が、今年も危なげなく県大会の頂点に立った瞬間だった。
「さすが梨央奈! ナイススパイク!」
「やっぱりうちの絶対的エースだわ!」
歓喜に沸くチームメイトたちが梨央奈の元へ駆け寄り、背中を叩き合う。
梨央奈は「ありがとう」と小さく微笑み、ハイタッチを交わした。しかし、その瞳の奥は、どこか冷めていた。
小学校での梨央奈の実力は、文字通り「群を抜いて」いた。
鋭いスパイクだけではない。セッター顔負けの正確なトスを上げ、相手の強打を完璧に拾う隙のないレシーブ力も持ち合わせている。すべてにおいて完璧。だからこそ、チーム内での梨央奈の立ち位置は「頼れるエース」であると同時に、「遠い存在」になりつつあった。
試合後のミーティングが終わり、他の部員たちが「これからみんなでアイス食べに行こうよ!」と盛り上がっている中、梨央奈は一人、静かに荷物をまとめていた。
「星野さん、一緒に行かない……?」
一人の同級生が遠慮がちに声をかけてくれる。しかし、別の部員がそれを遮るように言った。
「やめときなよ、梨央奈ちゃんは居残り練習するんでしょ? 私たちとは熱量が違うんだから」
悪気があるわけではない。ただ、実力が違いすぎて、気を遣われているのだ。
梨央奈は小さく息を吐き、「うん、みんなで行ってきて。優勝おめでとう」とだけ告げて、体育館を後にした。
夕暮れ時の体育館の裏。
梨央奈は一人で壁に向かってボールを打ち付け、跳ね返ってくるボールをレシーブする「壁打ち」を繰り返していた。
パン、パン、と虚しい音が響く。
「……バレーは、楽しい、はずなのに」
どれだけ高い打点からスパイクを決めても、どれだけ綺麗にボールを拾っても、心のどこかにぽっかりと穴が空いたような寂しさがあった。
みんなが自分を神格化し、自分にボールを集める。けれど、誰も自分の本当の「熱」についてきてはくれない。
(私と同じ目線で、同じ熱さで、一緒に戦ってくれる人はいないのかな……)
ボールを抱きかかえ、梨央奈は赤く染まる空を見上げた。
この時はまだ知る由もなかった。
小学校を卒業し、進学した先の中学校で、自分の心を一瞬で奪い去る「絶対的エース」の先輩と出会うことになるなんて――。
体育館の天井高くに上がったチャンスボール。
セッターの鋭い声と同時に、背番号「1」を背負った星野梨央奈(ほしの りおな)は、すでに助走に入っていた。
タ、タン、と力強く床を蹴り、宙へと跳ぶ。
小学生離れした圧倒的な最高到達点。ネットの遥か上から見下ろす敵陣のブロックは、まるで止まっているかのように遅く見えた。
(――ここだ)
空中で一瞬、身体が静止したかのような錯覚。梨央奈はしなやかに右腕を振り抜き、ボールの芯を激しく叩いた。
ドゴォッ!!!
重い破裂音が体育館に響き渡る。
梨央奈の放った強烈なスパイクは、相手レシーバーの腕を弾き飛ばし、そのまま誰もいないコートの奥へと突き刺さった。
ビィィィーーーッ!!
試合終了を告げるホイッスルの音が鳴り響く。
「セットォッ、ウォン!」という主審のコール。
全国大会の常連である強豪クラブチーム『北斗JVC』が、今年も危なげなく県大会の頂点に立った瞬間だった。
「さすが梨央奈! ナイススパイク!」
「やっぱりうちの絶対的エースだわ!」
歓喜に沸くチームメイトたちが梨央奈の元へ駆け寄り、背中を叩き合う。
梨央奈は「ありがとう」と小さく微笑み、ハイタッチを交わした。しかし、その瞳の奥は、どこか冷めていた。
小学校での梨央奈の実力は、文字通り「群を抜いて」いた。
鋭いスパイクだけではない。セッター顔負けの正確なトスを上げ、相手の強打を完璧に拾う隙のないレシーブ力も持ち合わせている。すべてにおいて完璧。だからこそ、チーム内での梨央奈の立ち位置は「頼れるエース」であると同時に、「遠い存在」になりつつあった。
試合後のミーティングが終わり、他の部員たちが「これからみんなでアイス食べに行こうよ!」と盛り上がっている中、梨央奈は一人、静かに荷物をまとめていた。
「星野さん、一緒に行かない……?」
一人の同級生が遠慮がちに声をかけてくれる。しかし、別の部員がそれを遮るように言った。
「やめときなよ、梨央奈ちゃんは居残り練習するんでしょ? 私たちとは熱量が違うんだから」
悪気があるわけではない。ただ、実力が違いすぎて、気を遣われているのだ。
梨央奈は小さく息を吐き、「うん、みんなで行ってきて。優勝おめでとう」とだけ告げて、体育館を後にした。
夕暮れ時の体育館の裏。
梨央奈は一人で壁に向かってボールを打ち付け、跳ね返ってくるボールをレシーブする「壁打ち」を繰り返していた。
パン、パン、と虚しい音が響く。
「……バレーは、楽しい、はずなのに」
どれだけ高い打点からスパイクを決めても、どれだけ綺麗にボールを拾っても、心のどこかにぽっかりと穴が空いたような寂しさがあった。
みんなが自分を神格化し、自分にボールを集める。けれど、誰も自分の本当の「熱」についてきてはくれない。
(私と同じ目線で、同じ熱さで、一緒に戦ってくれる人はいないのかな……)
ボールを抱きかかえ、梨央奈は赤く染まる空を見上げた。
この時はまだ知る由もなかった。
小学校を卒業し、進学した先の中学校で、自分の心を一瞬で奪い去る「絶対的エース」の先輩と出会うことになるなんて――。



