ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 そしてすぐに、この指輪を私にくれた。
 あの日から今日まで、私たちはずっと一緒にいた。

 私、あのとき――。
『これからはずっと、ハルといたい』って、言ったくせに。

 部屋の隅にひとつだけ置かれた大きなスーツケースが、視界の端に映った。

 ◇

 テレビはつけないまま、ずっとずっと喋っていた。
 飽きもせず昔話ばかりして、声を出して笑い合った。

 離れている二年間の過ごし方。ロンドンでの生活のこと。ここに残る私のこと。
 交わしておくべき「先の話」は、山ほどある。
 けれど、それらを口にした途端、この穏やかな時間が崩れ去ってしまいそうで、切り出すことができなかった。

 朝が来れば、私たちの物理的な距離は、何千キロも離れてしまう。

 それでも、見つめ合うハルの瞳は優しく、部屋には彼の温度と香りが満ちていた。
 一秒ずつ確実に、別れのときへと向かっているというのに、今の「この瞬間」は嘘みたいに楽しくて、幸福でたまらなかった。