ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 そのあと、駅まで送ってくれる道すがら、ハルは私の手をずっと、痛いほど強く握りしめていた。
 その感触が、懐かしくて仕方なかった。

 電子音が鳴る改札前。
 繋いでいた手がするりと解かれると、心地よい温度が急激に失われていく。
 誤魔化しようのない寂しさが込み上げた。

『……じゃあ、また』

 ハルが静かに呟く。

『うん……』

 小さく頷き、背を向けたけれど、足が動かない。

 私は、すぐに振り返った。

『……っ、やっぱり……返事、今していい?』

 ハルの顔が、強張る。

『……いい返事なら』

 そう言って、目を逸らした。

『うん……』

『え?』

 私の短い答えに、彼が勢いよく顔を上げる。


『私も……これからはずっと、ハルといたい』


 気恥ずかしくて少しずらしていた視線を、ゆっくりと合わせた。
 その瞬間、弾かれたように私の手を引き、彼は踵を返し始めた。

『……あの、ハル……!?』

『じゃあ、帰らないで』

『でも、ハルは明日仕事じゃ……』

『マナは休みだろ? 火曜日だし。だから……朝までいてよ』

 思わず、顔が綻ぶ。

『……私の休み、覚えてたんだね』