ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 偶然の再会から、腕を引かれるまま彼の部屋へたどり着き、言葉にできない熱を交わし合った。

 ずっと私に覆い被さっていたハルが、そっと顔を上げる。
 そして、すがるような瞳で言った。


『……結婚して』


 あまりに突然で、その意味を理解するのに数秒を要した。

『……えっ?』

 ただただ、目を見開く。
 だって、ほんの数時間前まで、ハルと再会するなんて夢にも思っていなかったのだ。

 三年ぶりに顔を合わせた瞬間から、互いの存在を確かめることだけに必死だった。
 これまでどう過ごしてきたのか。今、どんな仕事に就き、どんなふうに暮らしているのか。
 そんな当たり前の会話すら、何ひとつしていなかった。

 無言のまま固まる私に、彼はひどく低い声で問いかけてきた。


『……付き合ってる奴が、いる?』


 苦しげに、顔を歪ませている。

『あ、それは……いない、けど』

 慌てて否定した。

『…………』

『えっと。ただ……驚いて。だって、また会えるなんて、思ってなかったから……』

 強い眼差しに、さっきまでとは違った理由で心拍が上がっていくように感じる。
 あの頃と変わらない部分もあれば、纏う空気がうんと大人びて、色っぽくもなっている。

 そんなハルは、私の首元へ、深く顔を埋めた。

『俺は……ずっと会いたかった、から』

 肌を伝うその響きは、切実だった。

 彼ほど思い切りのよくない私。
 即答できずにいると、『返事は急がないから』と、言ってくれた。