ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 午後になったらどこかに出かけようかと、話してはいたものの。
 私たちは結局、冷蔵庫の余り物で小腹を満たす以外はずっと、シーツが散らかるベッドの上にいた。

 どんなに強く確かめ合っても、少しでも身体が離れると途端に恋しくなって、またどちらからともなくすがりつく。
 どうしようもなく甘くて苦しい行為を繰り返した。


 ついさっき、赤みを帯びた夕暮れになっていることに気づいた窓の外は、またすぐに色を変え、群青の闇へと化していた。

 夕食はハルの希望で、近所のちょっといいお寿司屋さんの出前をとった。
 ダイニングテーブルに向かい合って座り、よく冷えたビールとともに艶やかなお寿司を味わう。

 自分の薬指に、そっと視線を落とす。
 今日は、普段はめている結婚指輪の上に、大切な婚約指輪を重ねている。
 特別なときにだけ、箱から出すようにしているのだ。

 リビングの柔らかな照明を受け、静かに煌めいている。

 顔を上げると、ちょうどハルの視線も、その光に引き寄せられるように私の左手へと向いていた。

 指をふわりと開いてみせる。

「ハル、これくれたとき……仕事中ははめられないって知って、すごくがっかりしてたよね」

 美容師は、お客さんに当たってしまったり、薬剤が付いて変色してしまったりするのを避けるため、飾りがある指輪ははめない人が多い。

「だって。男除けだからって気合い入れて、貴重な初ボーナス注ぎ込んだから」

「ふふ。ごめん」

 この眩い輝きを見るたび、当時のことを思い出す。