ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 消え入りそうな懇願を合図に、もつれ合うようにして向かった寝室。
 あっという間に、二人の高鳴る体温と吐息で満ちていく。

 決して、都合のいい自惚れなんかじゃない。
 濡れた瞳。背中に回される細い指先の力。切実な響きを持った掠れ声。
 表情や仕草のすべてから、俺への痛烈な恋しさが伝わってきた。

 行き場のない視線が絡み合うたび。
 互いの胸の内で張り裂けそうになっている『本当の気持ち』が、喉の奥から何度も出てきそうになる。

 その寸前で、強く唇を重ね、塞ぎ合った。

 言葉は口に出した瞬間、輪郭を帯びてしまう。
 そのとき、絶望的な辛さを突きつけられるのは、言った本人になるのかもしれない。

 それを、避けてやりたい。
 そう、思ったからだ。

 すがりついてほしかったはずなのに。
 言わせたい言葉があったはずなのに。

 あまりに深く想うことで、初めて出会う愛情の形があった。