ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 家の扉を開け、革靴を脱ぐ。
 一昨日ぶりの我が家の匂いが、肺に染み渡った。

 廊下を歩み進めると、リビングの脇へ置かれた大きめの段ボールが視界に映る。
 必要最低限の荷物はすでに空輸で送ったのだが、そこに詰めきれなかったものをまとめている最中だ。

 俺が発ったあと、マナに発送してもらうことになっている。

 突きつけられる現実から目を逸らし、箱の横を通り過ぎる。


 開け放たれたベランダの窓際で、ぼうっと外を眺めている背中が見えた。


「……っ」

 たった一日だ。
 たった一日離れていただけで、どうしようもないほどの飢えが募っている。

 こんなんじゃ、先が思いやられる。

 今すぐ引き寄せて、この腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動が、身体の底から激しく湧き上がった。