湯がジャスミンの色に染まっていくのを見つめる傍ら、背中越しに明かされた決断の理由は、痛いほどに真っ当だった。
マナにとって、美容師の仕事はもはやアイデンティティそのものだ。
それを手放し、海の向こうという未知の場所へ行くことが、到底想像できないという。
誰かと笑い合うのが好きな彼女にとって、部屋で一人、夫の帰りを待つだけの生活はあまりに寂しい。
自分を見失ってしまうのではないかという恐怖は理解できたし、反論の余地などなかった。
懸命に納得しようとする、その一方で。
身勝手に怒り狂いたくなる自分が確かに存在し、息を潜めている。
一度でも素肌に触れてしまえば、その優しさに付け込んででも、意思を変えてやりたくなってしまいそうで。
だから、手を伸ばせなかった。



