ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 丁寧にブローを終え、合わせ鏡で背面の仕上がりを確認してもらう。

「綺麗だわ。ありがとう」

 先生はずっと、自然な丸みをもたせたショートボブを好まれている。

「よかったです!」

 ケープをそっと外し、レジカウンターへご案内する。
 スモーキーベージュの長財布が鞄にしまわれるのを見届け、予約管理のタブレットを開いた。


「次回も……『一か月後』に、いらっしゃいますか?」


 そのときも、私は変わらず――日本(ここ)にいる。
 声に出した言葉が耳に響き、自らの決断を再確認させられた。

「ええ。来月の同じ日に、よろしくお願いします」

「……はい。お待ちしていますね」

 懸命に笑顔をつくって頷き、冷え切った指先で画面をタップした。