ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 火曜日の昼下がり、明るいカフェだった。
 冷房が効きすぎていて、肌寒かったのを覚えている。

 久しぶりに会えたはずのハルのトーンは、初めから低かった。
『会いたい』と言われていた、次の火曜日。先輩スタイリスト主催の勉強会、そして夜の懇親会が重なってしまい、誘いを断ったことが尾を引いていたのだと思う。

『コーヒー、奢るから!』

 機嫌をとらなきゃと、取り繕うようにかけた声は空回りした。
 学生扱いされたと感じたのか、こちらを見ようともしなくなった。

 窓際の席。
 行き交う車を眺めていたハルは、平坦な声で吐き捨てた。


『もう、別れよ。マナといると、疲れる』


 ガラスの外へ向けられたままの横顔は、心底うんざりしているように見えた。