遠ざかるヒールの音を聞き流しながら、脳裏には妻の顔が浮かんでいた。
この前、同窓会に行った夜。不満げに頬を染めながら嫉妬を明かしてくれた。
思い返すたび、腹の底が甘く痺れる。
正直、何度でも見たい。
だから時折、この女性社員が頻繁に声をかけてくることも、あえて話したりしている。
そっけなく「ふうん」と流そうとしながらも、その横顔が微かに曇る瞬間を観察するのは、至福の時間だ。
もちろん、本気で不安にさせたいわけじゃない。
絶妙なラインを見極め、ギリギリのところで理性を保っている。
マナの余裕が崩れる瞬間だけが、俺の芯を熱くする。
そんな自分自身の歪んだ嗜好に気づいたのは、彼女と出会ってから。
自分のそんな一面に驚いたものの、他の人間にどんな感情を向けられようと欠片も興味が湧かない。
結局のところ、この仄暗い欲求は、ただ一人だけに向けられる特別なものなのだろう。
微かに残る余韻を呼び起こし、密かに堪能していた、そのとき。
数メートル先に座る上司から「幹本、ちょっといいか」と声を投げられた。
「はい」
ごく軽いトーンの呼び出しに、静かに立ち上がると、わざわざ小さな会議室まで連れていかれた。



