ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 肌にまとわりつくようなシーツの余熱。
 寝室を包むオレンジ色の間接照明の下、至近距離で視線が絡む。

「今日のマナ、素直で可愛かった」

 ハルが浸るように言った。

「……いつも意地張ってるから、大抵は可愛くないってことね?」

 照れ隠しに唇を尖らせると「いや?」と即座に否定された。

「それを崩すのも楽しいから。バランスよく配分して」

 至極真面目なトーンで告げられ、「なに、配分って……」と小さく吹き出した。


 シーツから腕を抜き、その目にかかる前髪へそっと指先を伸ばす。
 さらりとした感触が、心地いい。

「伸びてきたね。切ってから、もう一か月経ったもんね」

「あー。今週末とか、行こうかな」

 再会して以来ずっと、私が働くサロンに通い、必ず指名を入れてくれている。

 次はどんなヘアスタイルにしようか。
 この甘いマスクとは対照的な、スッキリと男らしいものにしてみようか。
 柔らかな毛束を弄りながら、いろんな顔を想像して楽しむ。