ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 重なった場所から、体温を交わし合う。

 だんだんと映画の音声が、遠い水底のノイズのように溶けて消えていく。
 指先をシャツの裾から素肌の隙間へ滑り込ませると、ハルが私を抱きしめる強さが増した。

 二つ年上という事実がどこかでブレーキをかけるのか、私はつい、投げかけられる愛情を受け止めることに必死になってしまいがちだけれど。
 私の想いは、ハルを求める熱は――ちゃんと伝わっているのだろうか。


 しばらくして、ハルの方から、ゆっくりと離れた。

 微かに汗ばんだ素肌を、エアコンの冷気が撫でる。

「……じゃあ、映画の続きに戻ろっか」

 吐息混じりの声をかけられた。

 キスで満足したのか、あるいはわざと寸止めにして楽しんでいるのか、いつもの余裕たっぷりな態度。
 その表情からは、先ほどまでの鋭さは抜け落ちていた。

 隣で身を起こし、「ちょっと巻き戻す?」と言いながら、リモコンの硬いボタンをカチ、カチと鳴らしている。


 モニターの青白い光に淡く照らし出された、形の良い横顔。

 たまらず、すがりついた。


「ん?」

 不意の行動に、頭上から低い声が落とされる。
 パリッとしたシャツを羽織っている肩口に、火照った頬を押し当てた。


「……ベッド、行きたい」


 気恥ずかしさを飲み込み、どうにか絞り出した。

 返事はない。
 テレビの微かな駆動音だけが流れている。

 恐る恐る、顔を上げた。

 いつもは涼しげに澄ましている口元が、堪えきれずに緩んでいる。
 私からその言葉を引き出したのが、嬉しくて仕方ないのだろう。

「…………いいよ?」

 愉悦に満ちた響き。
 ぷつりとモニターの電源が落とされ、二人で深い夜の寝室へと吸い込まれていった。