ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 夕食と入浴を早々に済ませ、ソファに並んで腰掛ける。
 リビングには、私が選んだお仕事モノの洋画の音声だけが、単調に響いていた。

 顔は一応画面に向けつつも、その視線は宙に浮いたままのハル。
 肩に回された腕から、同じボディソープの香りが漂ってくる。

 そして長い指先で、私の二の腕の素肌をなぞるように撫で続けていた。
 微熱を帯びた感触のせいで、こちらまでストーリーが頭に入ってこない。

「……ハル」

「んー」

「映画、観てないでしょ」

「うん」

 平然とそう答えたと思ったら、突然、強い力で肩を押された。

 軋むソファの音とともに、視界がぐるりと反転してクッションに沈み込む。
 上から覆い被さってきた影が、部屋の明かりを遮った。

 すぐ横のモニターでは、相変わらず洋画の登場人物たちが早口で捲し立てている。


「ダメだ。苛々する」


 平坦なトーンでそう呟いたあと、逃げ場を奪うように私の唇を塞いだ。