ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 火曜日の夜、六時半。
 西日が落ちきり、薄暗くなった廊下に、鍵穴へ金属が差し込まれる硬い音が響いた。

 それを捉えた私は、小走りで玄関へ向かう。

 重い扉が開くと、すっかり夏を迎えた外の生ぬるい空気とともにハルが姿を現した。

「おかえり」

 明るく取り繕った声は空回りして、間の抜けた響きになる。

「…………」

 ハルは何も答えない。
 ただただ不機嫌な瞳で、じっと見下ろしてくる。

 口元が、やや引き攣る。

 やがて、ひんやりとした微笑みを浮かべるとともに、綺麗な手をスッと差し出してきた。

「出して?」

 どうやら、私の懸念は的中したらしい。