◇
夕方の電車に揺られ、彼女の実家へ向かった。
食卓の中心で快活に笑う義父は、顔立ちも、カラッと明るい性格もマナにそっくりだ。
軽妙な冗談を飛ばしては、自然と周囲を笑顔にする。
一方で、マナの三つ下で、俺より一つ下になる弟のアキラは、物静かだった義母の血を濃く継いでいるらしい。
歳が近いものの、結婚の挨拶で初めて顔を合わせた日から、まともに言葉を交わした記憶は数えるほどしかない。
「アキラ、ハルくんにドレッシング回してやってくれ」
「……どうぞ」
「どうも」
差し出された小瓶を受け取る瞬間、ふと視線が絡む。
その静謐な表情の奥で、いつも値踏みされているような気がしてならない。
要するに、不器用なシスコンなのだろう。
賑やかな食事が終わると、テーブルには義父の手作りだという彩り豊かなフルーツタルトが並べられた。
彼は一番綺麗な一切れを小さな平皿に移すと、そっと仏壇へと運んでいく。
和室の奥から、澄んだおりんの音が響いた。
静かに手を合わせる背中は、深い慈愛に満ちている。
マナが以前、教えてくれたことがある。
義母が他界して十五年、義父の周囲に別の女性の影が差したことはただの一度もないのだと。
気遣ったマナが『自分の幸せを遠慮しないでほしい』と告げたときも、『ただモテないだけだよ』と笑い飛ばされたらしい。
けれど、俺は勝手にこう感じている。
子供たちへの気兼ねだとか、妻への純愛を貫き通したいとか、そんな大層な理由ではなく。
ただシンプルに、今でもあの人のことがどうしようもなく好きで、他の誰かに目を向けられないだけなのではないかと。
夕方の電車に揺られ、彼女の実家へ向かった。
食卓の中心で快活に笑う義父は、顔立ちも、カラッと明るい性格もマナにそっくりだ。
軽妙な冗談を飛ばしては、自然と周囲を笑顔にする。
一方で、マナの三つ下で、俺より一つ下になる弟のアキラは、物静かだった義母の血を濃く継いでいるらしい。
歳が近いものの、結婚の挨拶で初めて顔を合わせた日から、まともに言葉を交わした記憶は数えるほどしかない。
「アキラ、ハルくんにドレッシング回してやってくれ」
「……どうぞ」
「どうも」
差し出された小瓶を受け取る瞬間、ふと視線が絡む。
その静謐な表情の奥で、いつも値踏みされているような気がしてならない。
要するに、不器用なシスコンなのだろう。
賑やかな食事が終わると、テーブルには義父の手作りだという彩り豊かなフルーツタルトが並べられた。
彼は一番綺麗な一切れを小さな平皿に移すと、そっと仏壇へと運んでいく。
和室の奥から、澄んだおりんの音が響いた。
静かに手を合わせる背中は、深い慈愛に満ちている。
マナが以前、教えてくれたことがある。
義母が他界して十五年、義父の周囲に別の女性の影が差したことはただの一度もないのだと。
気遣ったマナが『自分の幸せを遠慮しないでほしい』と告げたときも、『ただモテないだけだよ』と笑い飛ばされたらしい。
けれど、俺は勝手にこう感じている。
子供たちへの気兼ねだとか、妻への純愛を貫き通したいとか、そんな大層な理由ではなく。
ただシンプルに、今でもあの人のことがどうしようもなく好きで、他の誰かに目を向けられないだけなのではないかと。



