ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 十五年という節目ではあるが、生前の母の要望どおり法事は行わず、毎年同様、家族だけで美味しい食事を囲む。

 今日のメインは、母が一番好きだったメニューでもある、ハンバーグ。
 いつの間にか料理が一番の趣味になった父の腕前は、今や驚くほどレパートリーが広く、味も絶品だ。
 今回はなんと三日もかけてデミグラスソースを煮込んだらしく、洋食屋にも負けないような深い香りが部屋中に漂っていた。

「……うま。父さん、店でもやれば?」

 普段は口数少ないアキラも、素直に褒める。

「だろ? ハルくんも、遠慮せずにおかわりしてな」

「はい。美味しいです」

「ハル、ハンバーグ好きだもんね?」

 別にお子様扱いしたつもりはないのだけれど、ジロリと見られて、小さく笑った。

 母がいなくなってから、父と弟と三人で、お互いを笑わせ、支え合ってきた。
 だから、自分を不幸だと感じたことはないけれど、ただひとつのぬくもりだけは、たしかに欠けていた。

 あたたかいダイニングで、隣の気配に安心する。
 この日に、こうして一緒にいてくれるハルは、私を自然な笑顔にさせてくれる。
 その事実に、深く、静かに満たされるのだった。