ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 母が一番お気に入りだったそのお皿を、傷を付けないようコトッと大切に供えた。

「はい、お母さん」

 写真の中の柔らかい微笑みは、私が小学六年生だったあのときから、ずっと変わらない。

「お線香、あげる?」

 静かな足音とともに、ハルが隣に腰を下ろした。

 頷いて、和ろうそくに火を灯す。
 束から抜き取った二本のお線香に火を移し、手で煽いで赤い火種だけを残した。
 一本を彼に手渡し、それぞれ香炉の灰にそっと立てる。

 ゆっくり立ち昇る、ひとすじの煙。
 白檀の香りが、空間に溶けていく。

 真鍮のおりんを棒で軽く叩くと、澄んだ音が響いた。

 目を瞑り、静かに手を合わせる。
 少ししてそっと瞼を開けると、隣にある端正な横顔は、まだ目を閉じたままだった。

 ハルはいつも、私よりも長くそうしている。
 祈ってくれているのだろうか。
 母に、何かを伝えてくれているのだろうか。

「マナもハルくんも、ありがとうな。さあ、冷めないうちに食べよっか」

 エプロン姿の父に声をかけられ、テーブルへと向かった。