ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 住宅街を抜け、見慣れた扉の前に立つ。
 インターホンを鳴らすと、すぐに足音が近づいてきた。

「いらっしゃい! 二人とも」

 勢いよく顔を覗かせたのは、父だ。

「マナとハルくん、来たぞー」

 奥のリビングに向かって、嬉しそうに声を投げている。

 就職を機に一人暮らしを始めてから、もう七年。
 玄関を開けたときの、この家特有の木の匂いは、ちっとも変わらない。

 靴を脱いで上がると、弟のアキラがソファに寝そべりながらテレビを眺めていた。
 視線だけをこちらに向け、「おっせーぞ」と言ってくる。

「ごめーん。仕事だったから」

 軽くお詫びする。
 ダイニングテーブルは、すでに夕飯の支度が済んでいた。

 荷物を置き、ハルを連れて洗面所で手洗いを済ませて戻ると、キッチンカウンター越しに父がお皿を差し出してきた。

「これ、お母さんにあげてくれる?」

 透き通った青いガラス皿の上には、艶やかな苺が乗っている。

「うん」

 そっと受け取り、和室の仏壇へと向かう。