ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 シャキッ、シャキッ。

 ハサミの音を響かせながら、丁寧にカットしていく。

「見るたびに、幸せそうね」

 鏡越しに、目尻の皺をさらに下げて、先生がふんわりと微笑んだ。

「……ええっ? そうですか?」

「きっと、旦那さんと楽しい毎日を送っているのね」

 手元を動かしながら、少しだけ照れくさくなる。


 高校時代、部活を引退してからも、何かと理由をつけては茶室に入り浸っていた。

 秋の文化祭でハルと出会ってから、夜に電話が来たり、遊びに誘い出されたり。
 一緒にいると楽しいし、ドキッとさせられることもあったけれど、当時は『二歳差』という壁がどうしても大きく感じられ、これは恋ではないと言い聞かせていた。

 そんなとき、先生の旦那さまも二つ年下だと知り、藁にもすがる思いで自分の気持ちを相談するようになったのだ。
 後輩たちから呆れられるほど頻繁に茶室へ通い詰めていたせいか、先生にとっても私の存在は印象深かったらしい。
 就職の報告を機に、こうして足を運んでくれるようになった。


「……先生の旦那さんって、やきもちとか焼きます?」

 少し前、自分が妬いてしまったこと(正確には、妬いたと無理やり認めさせられたこと)は棚に上げ、普段のハルの異常なまでの嫉妬深さを思い出し、尋ねてみた。

「ええ、焼くわよ。結構しつこいのよね」

「えっ、そうなんですか! どうやって対処されてますか?」

 カットに集中しながらも、思わず身を乗り出してしまう。

「ふふ。そうねえ……」

 穏やかに相槌を打ってくれたり、そっと自分の話を共有してくれたりする先生と話していると、高校時代に戻ったような錯覚に陥る。