怒らせてしまった後悔を、微塵も感じられなかった。
マナが初めて生々しい感情を向けてくれたことが、ただただ嬉しかった。
自分の愛情が歪に捻くれていることを、明確に自覚した瞬間だった。
『……帰るっ!』
マナは荒々しく鞄を拾い上げ、踵を返す。
慌てて追いかけ、その細い腕を掴んだが、こちらを見ないまま力任せに振り払おうとする。
そのときだった。
真横の大通りを、大型トラックがけたたましい音を立てて走り抜けた。
跳ね上げられた巨大な水飛沫が、マナの足元を容赦なく打ち据え、ローファーもソックスも、あっという間に泥水に塗れた。
それなのに、なぜか俺の方は、少しの飛沫を浴びるだけで済んだ。
『…………』
『…………』
雨音だけが響く中、数秒間、完全に時が止まった。
ぐしょ濡れの足元と、呆然とする顔。
そんな状況に、堪えきれず小さく吹き出してしまった。



