ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 小さなレストランを貸し切って開かれている同窓会。
 立食形式の賑やかなフロアから距離を置き、壁際の席でグラスを傾けながら、元クラスメイトの他愛ない会話に適当な相槌を打っていた。

 最初は顔を出す気などなかったが、幹事から送られてきた参加者リストに『ある名前』を見つけた瞬間、考えが変わった。

 遠くのテーブル越しに、かつての担任と会話を交わしている人物を捉える。
 彼女、鈴原(すずはら)は――マナと出会う直前まで、短い期間だけ付き合っていた相手。

 ここに来た理由は、ただ一つ。

 マナを、妬かせたい。

 幼稚なのは、重々承知している。
 でも、どうしても妬いているマナを見たいのだ。

 強がりもあるのか、いつも飄々としてみせるマナだが、一度だけ明確に嫉妬心を露わにしてくれたことがある。
 それが、あの鈴原に対してだった。