ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 高校三年の冬、年が明けた頃のことだった。

 夏の間に美容専門学校への進学を決めていた私は、周りが受験シーズンの佳境を迎える中、ハルと遊んでばかりいた。

 その日は、傘を持つ手の感覚すら奪っていくような、冷たい雨が降っていた。

 二人の学校は同じ最寄り駅だったため、いつもその改札前で待ち合わせた。
 少し遅れて到着した私が、屋根の下に入り、ブレザーや傘から雫を払っていたとき。


『あ、幹本』


 背後から、透き通った声が響いた。

 振り返ると、ハルの高校の制服にペールブルーのマフラーを巻いた女の子がいた。
 同じ雨の中を歩いてきたとは思えないほど、その長い髪はさらりと揺れていた。

『おー』

 その姿を認めた彼は、短く返した。
 隣にいる私の存在に気がついた彼女は、形の良い唇に小さな微笑みを浮かべ、静かに去っていった。

 私たちがホームに上がる頃には、一本前の電車に乗ったのか、その姿はなかった。