毎日ネクタイを締め、大きなビルに通うようになっても。
雑踏を歩けば、無意識に姿を探していた。
彼女が使っていたシャンプーの香りがするだけで、心臓が痛いほど跳ねて立ち尽くした。
未練がましく彼女の職場の隣街に部屋を借りたのも、いつか偶然すれ違えないかという、奇跡にすがる気持ちからだった。
会いたい。顔が見たい。
次に会えたら、もう二度と離さないのに。
そんな祈りのような執着が実を結んだのは、スーツの下で肌が汗ばむような、初夏の夜の交差点だった。
信号が青に変わり、押し出されるように歩き始めた、視界の先。
行き交う人波の中、向かいから歩いてくる姿を見つけた瞬間、周囲の動きや音、すべてが止まった。
『……ハル!』
俺に気づいて、ただ懐かしそうに目を細めたマナ。
考えるより先に、その腕を掴み、走り出した。
突拍子もない俺の行動に目を丸くした彼女は、何かを問いかけていたが、騒ぎ立てる自分の心臓の音に掻き消されて何も聞こえない。
無我夢中で手を引く。
人目から離れ、湿気の籠もる薄暗いトンネルに差しかかったとき、耐えきれずにキスをした。
欲しくてたまらなかった、懐かしい香りと、柔らかな感触。
初めこそ驚いていたマナも――やがて背中に手を回し、応えてくれた。
そのまま自分の家に引きずり込み、空白の時間を埋めるように、すべてを注ぎ込んだ。
乱れたシーツの中で息を切らしながらも、必死に熱を返してくれたマナを腕に閉じ込め、ただ一言、懇願したのだ。
『やり直そう』ではなく――『結婚して』と。



