ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


 マナは『した』あと、いつもすぐ寝る。

 薄暗い間接照明だけが灯る静寂の中、小さな寝息が溶けていく。
 枕に沈む寝顔さえ見逃すのが惜しくて、ずっと眺めていた。


『そのときは誰とも、……ハルとも、付き合ってなかったんだから。ごはんくらい行くよ』

 先ほどの言葉が蘇る。

 そう。俺たちには――別れていた期間が、三年ほどある。
 それが、俺の奥底に巣食う醜い執着の正体だ。

 離れていた間のマナを見ていた男たちには特に、理性を焼き尽くすほどの嫉妬が湧き上がってしまう。
『ただの友達』だという男相手でさえ、この有り様だ。
 もしも、彼女の肌を知る男と鉢合わせでもしたら――俺は何をしでかしてしまうかわからない。

 普段なら、意地悪く焦らしてはその反応を楽しむことで、満足できるはずなのに。
 久しぶりに、荒々しい感情をそのままぶつけてしまった。

 浅い眠りの中にいる彼女の頬を人差し指でなぞると、くすぐったそうに小さく身じろぎした。
 そのたしかな反応に安堵しつつも、苦い記憶へと引きずり込まれていく。