ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。


「あ……うん。違うよ?」

「何もなかった?」

「うん。ただの友達」

「本当に?」

「…………」

 振り返ったマナを見たときの、あいつの表情。
 俺を紹介され、微かに揺れていた瞳の奥。
 それらが、『ただの友達』という言葉を疑わせる。

 案の定、マナの唇に小さな苦笑いが浮かんだ。

「うーん……ごはんに行ったことはあるかな」

「二人で?」

「まあ……そうだね」

「何回?」

「ええ? 二、三回かなあ?」

 記憶を辿るように、視線を斜め上に向けている。

 無言のまま、手元にあった白ワインを呷る。
 冷えた液体を飲み込んでも、胸の奥のつかえは取れない。

 黙ったまま、グラスをテーブルに置いた。
 それを見て、やや肩をすくめるマナ。

「……もー。そんなに怒る? そのときは誰とも、……ハルとも、付き合ってなかったんだから。ごはんくらい行くよ」

「…………」

「ハルだって、たくさん彼女つくってたんだし」

 マナは、野菜のキッシュをフォークで切り分けながら、小さく抗議した。

 俺がどれだけの虚無を抱えてあの数年を過ごしたか、こいつは何もわかっていない。