ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 マナの寝言がうるさいという話題で笑い合っていたとき。

「……あれっ? マナ?」

 横を通った男性客が、声を上げた。
 そいつを見上げたマナの表情が、驚きから明るいものへと変わる。

「えっ、リョウ! 久しぶり!」

 けれどその後すぐにハッとして、俺に「専門学校の友達!」と説明した。
 一応、小さく会釈をしておく。

 そしてマナは俺のことを「夫です」と、はにかみながら紹介した。

「……おお! 結婚したのは聞いてたけど、初めまして!」

 屈託のない声。
 美容専門学校の同級生だというその男は、近隣のサロンに勤めているらしく、軽い会話を交わして去っていった。


「……いやー、ごめんね。会うの三年ぶり? くらいだから、ビックリしちゃった」

 残されたテーブル。
 マナはグラスを持ち上げながら、俺の表情をちらりとうかがっている。

 喉の奥が、急速に乾いていく。


「……付き合ってた奴じゃ、ないよな?」