マナがまた隣で笑ってくれるようになるまで、気が遠くなるほどの時間、暗闇を彷徨った。
一度失ったものを再び手に入れた人間は、どうしたって臆病になる。
あるいは、狂気じみた執着を抱えることになる。
俺の場合は、間違いなく後者だった。
他の男が、マナのことを気安く呼ぶだけで、視界に入れるだけで、虫唾が走るのだ。
シャキッ、シャキッ。
心地よいリズムで、彼女が俺の髪を切り落としていく音が、耳元で響く。
時々首筋に触れる、柔らかな指先。
真剣な作業の合間に、時折こぼれる微かな吐息。
毎月カットしてもらっていてもいまだに慣れることはなく、ただ自分の中に溜まっていく熱を必死に追い払う。
「お客さま。いかがですか?」
微笑みとともにかけられる声が、脳に直接届く。
俺以外の男性客にもこうしているのかと思うと、腸が煮えくり返りそうになる。
けれど、俺はもう学生でもあるまいし、分別もなく嫉妬をぶつけるわけにもいかない。
マナはこの仕事に、プロとして、信念を持って取り組んでいるのだと、頭ではわかっている。
だから、腹の底で渦巻く真っ黒な感情は、静かに目を閉じてやり過ごすしかなかった。



