ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

 二軒目の店の名前は、覚えていない。

 テーブルの木目に頬を預けたまま、微かに流れてくる曲を聴いていた。

 ミズキから「スマホ貸して」と言われ、鞄の中を手探りする。
 力の入らない指先から、それは抜き取られた。

 どこかへ電話をかけている気配がする。
 瞼が重い。

 やがて、名前を呼ばれ、顔を上げる。

 滲む視界の向こう。
 呆れ顔をした彼が立っていた、気がした。