ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。【連載中】


「……っ!?」

 驚いて抗議しても、くぐもった声が漏れるだけ。
 強引で、少しだけ乱暴な感触に、さっきの出来事を根に持っていることを悟る。

 手に持ったままのベルトを押し込められ、ガチッとロックされる鈍い音が響いた。

「…………っ……」

 息が乱れてきたところでようやく解放されると、暗い車内でもわかるほど不機嫌な瞳に捉えられた。

「……なんなの? アイツ」

「……え? ああ……最近、新しく入ってきた人で……」

「そんな情報は、どうでもいいんだよ」

 前を向き直ったハルは溜息を吐きながら、シフトレバーを荒っぽく引いた。

「何? 『マナちゃん』って」

「…………」

 どうやらその呼び方と、彼の地雷のひとつである『弟間違い』のダブルパンチが気に障ったらしい。

「……でも、『笑い方が一緒』って言われたね」

 少しの照れくささと嬉しさが入り混じり、つい「へへ」と顔が綻ぶ。

「…………」

 ハルは一度だけ横目でこちらを見やり、無言で車を発進させた。

 今日はこの時間まで私の仕事があったため、記念日のディナーは、彼が休みを取ってくれた次の火曜日に予定している。
 当日である今夜は、私が一番大好きなドライブデートをするのだ。
 特別なとき、こうして車を借りて連れていってくれる。

 街灯の光が、大人びた横顔を代わる代わる照らし出す。

 さっきのように、嫉妬深くてすぐに苛々するところがありながらも、根は優しくて、私に甘い。
 そんな彼を見つめながら、ずっと変わらない想いを抱くのだった。