ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。【連載中】

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 そんな懐かしい記憶に浸りながら、本日最後のお客さんであるハルの会計をする。
 短くなった襟足を眺めていると、思わず本音が口からこぼれた。

「うん。可愛いっ」

 ハルは、クレジットカードの暗証番号を入力していた指をピタリと止めて、「あ?」と軽く睨んできた。

「褒めてるんだってば」

「……あとで覚えとけよ」

「きゃー。こわーい」

 いつものように軽口を叩き合っていると、同僚の男性スタイリストがバックヤードからカウンターへやってきた。

「あっ、マナちゃんの弟さん?」

 ハルの眉がピクリと動く。
 周囲の温度が、数度下がったような錯覚に陥る。

「……違いますよ! 夫です」

 同僚はなぜか「え、マジか!」と少し驚き、私たちの顔を見比べた。

「笑い方が一緒だから、姉弟かと思った!」

 そして、ちょっと嬉しいことを言ってくれる。

「てか、こんなイケメンが旦那さん!?」

 無邪気に感心する同僚に対し、ハルは静かに微笑み返している。
 けれど、長年一緒にいる私には分かった。
 その瞳の奥が、一切笑っていないことが。