ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 ◇

「いただきます」

 定位置に座り、一緒に食べ始めた。

「美味しい」

「ん」

 フライトは昼過ぎの便だが、空港での手続きを考え、もう二時間後には家を出る予定にしている。

 マナは「空港までは行かずに、家で見送りたい」と言った。
 俺も、それがいいと思った。
 理性を保ったまま、彼女を置いて飛行機に乗れる自信が、持てなかったからだ。

 なるべくいつも通りに。
 俺たちは、その無言のルールのもと、同じ味を口に運んでいった。